自分が併設しているもうひとつの経済ブログ 「新・暮らしの経済」~時評編~ で竹森俊平慶大経済学部教授や大竹文雄阪大教授らと共にコロナ対策諮問委員会の委員に招聘された東京財団政策研究所研究主幹である小林慶一郎氏について2回連続で猛批判しています。

 

コテコテの緊縮派 小林慶一郎らを委員にしてしまったコロナ対策諮問委員会

現場無視の小林慶一郎が開陳する全国民PCR検査実施提言の愚

 

 

小林氏についてはネット上で既に彼の通産官僚時代の先輩であるという西村康稔経済再生担当大臣と共に散々批判が行われています。さらに小林氏が自分の専門外である感染症対策に首を突っ込み「全国民にPCR検査を行うべきだ」などという寝ぼけた提案をテレビや諮問委員会の場で公表してしまいました。

全国民PCR検査実施は感染拡大防止になるどころか、逆に偽陰性の検査結果が出てしまった人が無防備で街の中へ出てどんどん感染を拡げてしまったり、限られた検査・医療資源を食い潰して重症者や他の傷病治療に回せなくなってしまうといった問題は「現場無視の小林慶一郎が開陳する全国民PCR検査実施提言の愚」の方で批判しています。

 

改めて小林慶一郎が過去に書いた論説を読み返してみましたが、かなりお粗末なものです。

 

消費税率50%超が要求される日本財政「不愉快な算術」

 

第十四回 供給不足経済へ 反転する常識 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS) 

 

上の二つの記事と全国民PCR検査実施の件で浮かんできたことは小林慶一郎という男は需要と供給がまともに把握できていないということです。「経済学はひとつのことだけ覚えればいい。需要と供給だ。」と云われていますが、彼はその読み違いを平気でしてしまうのです。だから予想がまったく当たらないし、トンチンカンなことばっか言うのです。

 

小林氏が「消費税率を50%にしないと国家財政が破綻して国債が暴落するとか、日銀による国債買受をするとマネーが市場にあふれてインフレが制御できなくなるなどと言うのは、政府が保有資産と負債の状況や供給側(潜在GDP)の高さや制約をちゃんと把握できていないからです。渋谷健司氏らが広めようとする全国民PCR検査などという愚策に飛びついてしまうのも、自分の思い込みだけで検査や臨床の供給能力をどんどん勝手に増やせると妄想しているからです。

 

私は渋谷氏や小林氏の全国民PCR検査実施の構想を聞いて三橋貴明氏や藤井聡氏らが推し進めようとしていた国土強靭化計画のことを思い出しました。国土強靭化計画は日本国民が東日本大震災の巨大津波で何千人以上もの死者を出したり、町全体が壊滅状態になってしまったというショックに打ちひしがれている中で、巨大防波堤や公共インフラの防災強化を年間20兆円、10年で200兆円を投じてやれといった提言です。藤井・三橋氏らのいう200兆円という数字がどこから出てきたのか不明です。日本全国で整備が必要な設備の新設や更新費用の総額が200兆円なのか、需要不足が200兆円なのかよくわかりません。思い付きだけで適当な数字を言うだけなら誰でもいえます。

 

小林慶一郎氏らのような増税・緊縮財政指向の経済学者と三橋貴明氏ならびに藤井聡氏らのような財政政策万能主義者とは方向性が一見正反対のように見えますが、私の目から見たとき両者とも同じ穴の狢であり、大きな思考欠陥があると思えてきます。それは需給バランス感覚の欠如国家社会主義的指向です。

 

財政政策を行う場合、まず需要と供給のバランスを観ないといけません。

私も今回のコロナショックやそれより以前から続いていた慢性的なデフレ不況に対して、常々金融緩和政策と共に積極的財政政策の実施を訴えてきました。その財政政策で政府がいくらの財政支出をすべきなのかの額を決めるのは民間事業者やその人材・設備がフル稼働した場合の供給力と需要の差=GDPギャップの大きさです

 

コロナ感染拡大による経済損失は最終的にどれだけの規模に膨張するのか不明ですが、落ち込むGDPの穴埋めに必要な額の財政出動が必要となってきます。需要側が著しく不足する場合はインフレ進行よりもデフレ進行が進む恐れが強いです。いまの時点で過剰インフレを懸念するのはナンセンス極まりないでしょう。むしろ需要側が弱ったままの状態が続くと、民間事業者の設備投資や雇用抑制などによって供給側も縮小されてしまう恐れがあります。需要不足型不況と供給不足型不況の併発も懸念されます。

 

ところが小林慶一郎氏は東日本大震災のときに供給ショックによって物価高騰が起きるかも知れないから金融・財政政策共々引き締めろなどと言っていました。

 

第十四回 供給不足経済へ 反転する常識 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS) 

 より引用

需要不足か供給不足か
 福島第一原発の事故と電力の供給不足の収拾は、数カ月から数年単位の長期戦になる。
 大震災と原発事故によって、日本経済の「体質」が変化したのではないか、という懸念が民間エコノミストを中心に広がっている。体質の変化とは、過去20年間の「需要不足とデフレ」の経済から、「供給不足とインフレ」の経済への変化である
 まだ詳細はわからないが、震災と原発事故は、日本経済の需要を抑えるだけではなく、供給面に深刻な影響を与える可能性がある。長期化する電力不足、サプライチェーンの分断、それに原発事故に関連するさまざまな供給コストの増加(製品や輸送手段の放射能汚染の検査など)は、日本経済の供給コストを増大させることは間違いない。問題は、供給制約の度合いが、どの程度まで進むのかよくわからないことである。震災前までは、GDP比4%程度(年間20兆円程度)の需給ギャップ(需要不足)が存在していた。この需要不足がゼロになるほど、今回の大震災で供給力が破壊されたとは考えにくいが、「需要不足(とデフレ)の解消が経済政策の目標」という過去20年間の常識が通用しなくなる程度には需要と供給のギャップが小さくなるかもしれない。

しかし実際には小林氏の予想に反して、その後デフレ不況がますますひどくなっていきました。

第1章 第1節 揺れ動く日本経済 - 内閣府 

より引用

2 デフレの要因と対応

概観では需要項目の動向を中心に我が国の景気の現状をみたが、以下では緩やかなデフレが続いている物価の現状とその背景にある動きについて触れる。

(デフレの持続)

外需の寄与が弱い中、景気は緩やかな持ち直し局面が続いており、物価は引き続き緩やかなデフレ状態にある。なお、2011年8月に消費者物価指数(CPI)の 2010年基準改定が公表されたが、前年比伸び率でみると平均▲0.6%ポイントの下方改定であった。近年の変化をみると、CPIのうち「生鮮食品を除く総合」(コア)は、石油製品等エネルギー項目を含むためプラスに転じたものの、「石油製品及びその他特殊要因を除く総合」(コアコア)はマイナスが続いている(第1-1-9図)。f:id:metamorphoseofcapitalism:20200520222404p:plainまた、リーマンショック後は円高が続き、原材料価格高騰の影響を為替増価がある程度軽 減しているが、構造的に輸入物価の影響度は低下している。輸入物価がCPIに影響する程度は、80年代から90年代には、1%の輸入物価ショックに対するCPIの反応は0.05%ポイント(4か月目)であったが、2000年以降のデータでは、0.01%ポイント(5か月目)と五分の一程度に低下している(第1-1-10図)。輸入比率は上昇しているにも関わらず、こうした影響度の低下が生じる背景としては、物価水準の低下が持続したことで、価格転嫁がなされにくい環境となったことも考えられる

震災による供給の寸断はごく短い期間だけでした。むしろ需要側の不足の方が大きかったのです。

 

今は需要不足状態なのか、供給不足状態なのかの読み違いは結構多くの人がやらかします。

小林氏らのような緊縮指向が強い経済学者やスタグフレーションが発生して「ケインズは死んだ」と云われた1970~80年代に経済学部の学生だったような人たちは「供給不足状態だ」と見做して経済構造改革と金融財政政策の引き締めに走りがちですが、ネット界をみると割りとアベノミクスの金融緩和政策に理解がある人たちでも2018年頃「もう需要不足不況から脱して供給不足になっている。もっと外国人労働者の受け入れを拡大して供給側を強くしないとGDPが伸びない~」と思い込んでいる人たちがいたりしたものです。

(自分は彼らの数人と大喧嘩しましたが・・・・)

 

話が少し脱線しましたが、需要と供給のバランスを見誤るような経済学者は的外れな政策提言をして経済活動を混乱させます。小林慶一郎氏など「ハイパーインフレが起きる」と騒ぎ立てる経済学者や評論家の多くは民間の経済活動についての関心が極めて低く、国家財政のことしか目に入っていないのです。だから民間の供給能力を見誤るのです。

 

ハイパーインフレ(あるいはそれに準ずる悪質なインフレ)が起きる国の多くは政府による通貨発行益の濫用や国債の濫発(とくに国債の保有者が外国人であった場合)を行っていますが、民間の生産活動や供給能力が著しく低いという問題を抱えています。ハイパーインフレを起こすような国は戦争で多くの労働力や物資を消耗していたり、社会主義国家であることが多いです。社会主義国家のほとんどは国家元首や共産党が強権的な独裁体制を敷いており、農業や工業など民間の生産活動を根絶やしにしたり、収奪の限りを尽くします。

 

旧社会主義国家の崩壊で発生したハイパーインフレ

国家社会主義と官製統制経済の愚かさ

 

海外に売るべきモノやサービスがないような国が外貨を稼げるでしょうか?できるわけありません。またドルとかユーロ、日本円などでしたら持っていても、何か他の財や資産と交換できるという期待がありますが、ベネズエラとか今でしたらレバノンの貨幣なんかを持っていて何と交換できるの?ということになるでしょう。しっかりとした民間産業が育っている国の貨幣ならその国が生産した財と常に交換してもらえるという予想や期待がありますが、そうでない国の貨幣は持っていても何の意味も価値もありません。

 

参考

 

小林慶一郎氏の頭の中に「生産と供給」という概念があるのか非常に疑わしくなってきますね。カネや負債の量のことしか関心がないようです。私がそう疑うようになったもうひとつの理由が全国民PCR検査実施の世迷言です。小林氏は臨床検査の知識がないままPCR検査がどういうものなのかよく調べずに、政府が予算をつけて誰でもいいからちょこっと検査の訓練をさせれば簡単に検査員を増やして検査体制を増強できると考えてしまっているようです。PCR検査は非常に高い専門性が要求され、丁寧かつ繊細な操作を根気強く続けられる適性を持った臨床検査技師でないとできません。検査員のマスクや防護服、ゴーグルなどは一人の検査が終わったら慎重に脱いで焼却処分するか、30分~1時間以上もかけて消毒しないといけません。検体の管理が杜撰だと誤判定が出るだけではなく、検査施設で感染を拡大させるようなことにもなります。

 

東洋経済

 「PCR検査せよ」と叫ぶ人に知って欲しい問題 ウイルス専門の西村秀一医師が現場から発信

 

ここまで話するとPCR検査はかなり膨大な資材と労力を投じるものだということがわかるかと思います。小林氏やその後ろにいる渋谷健司氏らは精度が高く、しかも廉価なPCR検査キットを開発すれば5兆円から9兆円で一日1000万件の検査を実施できるし、3兆円の予算で臨床検査士や検査員の要請ができるなどと目論んでいますが、かなり眉唾物で「取らぬ狸の皮算用」もいいところだと思えてきます。篠田英朗氏は全国民PCR検査をやるとなると「年間54兆円かかる」と試算しています。http://agora-web.jp/archives/2045987.html

 

小林氏らはたった半年で臨床検査技師を一気に増やしたり、安い検査キットを開発できてしまうと本気で考えているのでしょうか?冒頭で述べた国土強靭化計画でも藤井氏や三橋氏らは「建設作業員なんかいくらでも増やせるわ」と高を括っているように感じられましたが、建設技術者不足で供給制約が生じ、入札不調が発生した有様です。国土強靭化計画ではありませんが、新国立競技場建設で若き現場監督責任者が過労自殺に追い込まれるという事態があったほどです。

 

これまで「量的金融緩和政策をやるとハイパーインフレガー」「消費税を50%に増税しないと財政破綻ガー」などといってきた小林慶一郎氏ですが、全国民PCR検査構想で下手をすれば54兆円という国土強靭化計画真っ青の無意味どころか有害なバラ撒きを主張し、その後大増税で国民から財を収奪するという国家社会主義的な構想を推し進めようとしています。MMTerよりひどい話です。

 

ハイパーインフレを引き起こすようなのは現実感覚のない小林慶一郎みたいな人間なのです。

 

今回の件で

小林慶一郎はアカだ!

ということを思い知りました。

 

 

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