このブログでは2017年に「バブルの発生と恐慌」編の連載記事を書き綴っていました。そして昨年2019年7月30日に「私たちは恐慌にどう立ち向かうべきか?(2019年7月30日追加記事) 」という追加記事を加えています。この記事の最後で「日本にとって1990年代のバブル崩壊がファーストインパクトで、2000年代後半のリーマンショックがセカンドインパクトと言えるでしょう。それは10数年おきに訪れています。そう考えるといまの景気失速はサードインパクトの予兆であると考え、警戒すべきです。」と書きました。それから半年も経った今、消費税率10%増税とその直後のコロナショックが重なり、令和恐慌目前といった状況になりかけています。

 

アメリカやヨーロッパなどコロナウィルスの感染拡大がひどい国では非常事態となり、海外渡航や外出の制限はもちろんのこと、都市閉鎖(ロックダウン)や店舗の営業停止なども行われています。つまりは生産活動や消費活動が著しく制限され、民間企業は極度の減収減益に、個人は休業や失業に追い込まれています。経済麻痺です。心臓外科手術に例えると一時的に心臓の動きを停めて、人工心肺で循環を置き換えているような状態だといっていいでしょう。

 

コロナショックや操業停止や集客激減で著しい収益不足になっているにも関わらず、銀行からの借入金や従業員への賃金支払い、不動産や設備の賃料、光熱費、税金などの固定費支払いに追われ、数多くの事業者は資金繰りが急に悪化しています。原因が異なりますが、恐慌のときと同じ状態だといえましょう。政府が民間事業者や個人に向けた休業補償や雇用助成金、税金・社会保険料の支払い延期・免除、つなぎ融資制度、給付金交付などといった空前規模の財政出動や中央銀行の量的金融緩和を実施しています。これはアメリカで起きたサブプライムローンショックによる金融危機や1929年の世界大恐慌などで行われた対応に似ています。しかしそれは今のコロナショックのように実体経済の方が先に停まるのではなく、金融側の問題、信用収縮によって発生しました。

 

以前自分のブログ記事で書いてしまったように世界大恐慌は「暗黒の木曜日」と呼ばれる株価の大暴落が引き金になって起きたと思われています。しかしミルトン・フリードマンとアンナ・シュワルツは貨幣供給の不足が原因であるという説を唱えました。

マネーは実物財(モノやサービス)の裏付けを持つべきものという真正手形主義やゴールドの裏付けを前提とする金本位制の足枷によって、中央銀行がマネーの供給を縮小したり、金利を上昇させてしまうことで、銀行や企業に資金が十分行き渡らなくなり、生産活動の麻痺を起こして恐慌を招いたとするカネ(資金)不足説です。アメリカ合衆国のマネーサプライは1929年から1933年の間に3分の1以上に減少していました。

アメリカ中央銀行FRBは預金不足になった銀行で取り付け騒ぎが起きているにも関わらず、準備預金の貸し付けを拒否し、数多くの銀行を潰しまくります。それによって信用危機が発生し、民間企業や個人は融資を受けられず、生産活動や消費活動を停止あるいは萎縮せざる得なかったのです。

金本位制にしがみついていたドイツやオーストリアなどの国ではゴールドの流出を防ぐために金利引き締めを行います。これも当然のことながら民間企業の投資意欲や個人の消費意欲を萎縮させます。

 

大恐慌研究家のベン・バーナンキは金融機関の信用危機によって貸出しコスト(実質金利)が上がってしまい、借り手の民間企業や個人の資金繰り悪化を招いて、実物財の生産や消費が萎縮してしまったことが世界大恐慌の原因だという説を唱えていました。

そのバーナンキが奇しくもFRB議長となったときに発生したサブプライム・ローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)の焦げ付きによってはじまった金融危機とその後の恐慌型不況についてもやはり金融側の問題からはじまっています。

2007年春ごろから不動産や証券、株式の値崩れが起きて、ベアー・スターンズやリーマン・ブラザーズ、シティグループといったアメリカの巨大金融機関が経営破綻あるいはその直前に至ってしまいます。金融機関の信用が大きく毀損されると銀行間で短期間だけお金を融通し合うときの金利(コールレート)が上昇していくことになります。そうなってくると民間企業や個人への融資でつける金利も上げないといけなくなり、借り手の金利負担が重くなってモノやサービスの生産を行うための投資を縮小せざるえません。もちろん雇用も抑制します。

 

これまでの説明どおり今回のコロナショックによる経済活動の麻痺と世界大恐慌やサブプライム住宅ローン金融危機は原因がまったく異なるのですが、今回のコロナ禍についても逆に実体経済から金融へと延焼してしまう危険があります。株価や為替相場が乱れ、不安定になっているときに、それで資産運用するのは恐ろしく危険な博打です。投機家たちは株式や証券だけではなく、安全資産とされる国債やゴールドまで売り飛ばし、皆ドルという現金に群がってしまいます。流動性選好が強い状態です。

民間企業はCP(コマーシャルペーパー)の値崩れで、それによる資金調達が難しくなります。コロナショックによる金融危機が発生しないようにいまどこの中央銀行も債券の買い取りやドル供給増大、ETF(株式連動型投資信託)の買い上げによる株価安定、そして銀行の準備預金不足に備えたマネタリーベースの積み上げなどといった金融政策を必死にやっています。そうしないと民間事業者は収益急減による資金繰り悪化だけではなく、銀行借り入れや株式、自社債などによる資金調達が難しくなることやそのコスト上昇、保有資産価値下落によるバランスシート毀損などによる打撃も加わります。

 

 

いまの時点では金融側にまでコロナ禍の延焼が及んでいませんが、その危機が訪れたときに備え記事をまとめました。

 

資金繰り悪化の苦境に立たされた民間事業者は銀行に借入金返済のリスケジュールを申し出るなどといった行動を採らざるえなくなるでしょう。またお金を貸し出す銀行側も自行の準備預金に余裕がなくなると貸し渋り・貸し剥がしを始め出す可能性が強まります。貸し倒れの危機が高まっているときには思い切った量的金融緩和で保険金というべき準備預金をたっぷり積み上げてやる必要が出てきます。

 

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