補講「将来の予想と合理的期待仮説」編ですが、今回は事業計画を立て、巨額の投資を行って製品開発や設備増強、原材料費の購入、人手を確保する企業経営者になったつもりで、中期~長期にわたる将来の予想の大切さを考えてみましょう。

  

 

何度も説明してきましたが、ここで金融緩和政策の意味とそれに積極的財政政策も加えた景気浮揚策であるリフレーション政策、さらにインフレターゲットやコミットメントについて復習しておきましょう。

 

金融緩和政策はどういう目的で行われるかと言いますと民間企業の投資意欲を促すためです。さらにいえば人への投資である雇用を拡大させることにつながります。このように民間の経済活動を活発化させる上で非常に重要な政策となります。一定期間以上金利を下げることによって民間企業の投資意欲やローンで家やクルマなどを購入する一般個人の消費意欲を伸ばす狙いがあります。しかしながらこの日本は1990年代初頭に三重野康総裁が「バブル退治だ」といっていきなり金利を引き上げて、企業の投資を冷やし込ませます。それ以降再緩和の遅れや中途半端な生煮え緩和の連続によって、金融緩和政策の効力を失わせ、結果的にゼロ金利やマイナス金利といった超低金利状態が慢性化します。いくら金利を下げまくっても投資や消費などにお金が遣われず死蔵するという流動性の罠に陥りました。

 

そこで中央銀行や政府が誓約した物価目標になるまで徹底的に金融緩和政策や積極的財政政策を行うというインフレターゲットを導入し、民間銀行が融資に遣うための準備預金を振り込む中央銀行当座預金口座に準備預金をたんまり積み上げて政策金利が上がりっこない状態をつくってやりました。これの目的は予想物価上昇率を上げてやることで名目金利からそれを引いた実質金利を低く抑えることにあります。間違える人が多いので強調しますが、インタゲの目的は物価を上げることではなく、実質金利を下げることです。投資を行う企業やローンを組む消費者に「(実質)金利が当面上がらない」という予想を持ってもらうことで、お金を借りて事業拡大のための大型投資やローンによる高額商品の購入意欲を伸ばすのです。

 

企業経営者が(実質)金利のことを考えているの?と思われるかも知れません。しかしながらドル箱の東海道新幹線を持つ超優良企業と云われ、リニア新幹線の建設を目指すJR東海のウェブサイトを見ますと金利に敏感であることに気づきます。

 

リンク

長期債務の推移(単体)|JR東海 | company.jr-central.co.jp

財政投融資を活用した長期借入について - リニア中央新幹線 - JR ... | linear-chuo-shinkansen.jr-central.co.jp

 

時事通信記事

東海道新幹線50年とリニア:時事ドットコム | jiji.com

 東海道新幹線のもう一つの問題は当時、膨大な債務を抱えていたという点。東北、上越、山陽新幹線の工事費の半分は東海道がしょってくれということで、5兆4000億円の借金をしょってスタートした。当時の年間利子が3500億円。年間の収入が8000億円だから、4割超える利子を払う。借金は年収の7倍近くという状況からスタートした。

 これがJR東海のアキレス腱だったが、この27年間に3兆円の金を返した。今年度末には1兆になると考えている。利子は3500億円が800億円になっている。

 これが何によってもたらされたかというと、輸送力の近代化によって収入が5割増えた。バブル崩壊によるゼロ金利という時代が続き、借り替える部分の金利は安くなっていく、余ったキャッシュフローで返していく。借金が3兆減り、金利は4分の1になったというのが今の状況。

 

2つめのJR東海プレス資料である「財政投融資を利用した長期借入について」を読みますと、

 財投借入による当社のメリットは、金利上昇リスク、資金調達リ スク、償還リスクの3つの経営リスクの低減です。具体的には、低 利で長期・固定の資金を確保できるので、将来の金利上昇リスク を回避し、長期間、利払いを低いレベルで固定することが可能と なります。  

とか

今後の経済や金利の変動に大きな影響を受ける ことなく、名古屋開業までに必要な資金を確保することができるよ うになり、資金調達リスクが低減します。

という文言が書かれています。

 

品川~名古屋間で5.5兆円以上もの投資をしないといけないリニア建設という巨大プロジェクトとなりますと、将来の金利がどうなるかが非常に気がかりになって当然です。JR東海の場合、国からの財政投融資というかたちでリニア建設費の借り入れができましたので、将来の経済情勢や日銀の金融政策態度に左右されず、ものすごく低い金利のままであることが確約されています。

このような枠組みではなく、通常の社債や銀行融資などによる資金調達ですと、将来借り入れた資金の金利が上がって債務負担が急に増えるというリスクがあります。それは通常の民間企業にとって死活を賭けた大きなギャンブルであるといえましょう。

 

金利が一定期間以上低く抑えられるという予想は民間企業が社運を賭けた大きな事業をやる上で、非常に重要なことです。中央銀行が金利を当面低く抑えるという予想をつくるのが、中銀総裁によるインフレターゲットというコミットメントやその約束の証である莫大な準備預金の積み上げ(量的金融緩和政策)です。

 

参考記事

 「インフレターゲットのほんとうの意味と目的 ~リフレはコミットメント~」

 

JR東海のような鉄道事業ですと、鉄道車輛の建造費が1輛2億円したりします。鉄道会社はそれをスペンディングファーストで何輛~何十車輛分も支払うのです。そして何十億~何百億円という投資額を20~50年という長い期間を経て回収していくのです。

 

鉄道に限らず、自動車や造船、航空機製造、製薬、建設といった産業分野では何百億円~何千億円という初期投資を行っています。1年、2年でその元を取ることは不可能です。ここまで莫大な資本力を要する巨大装置産業でなくても、事業を軌道にのせるまで実業家たちは自腹を切るようなかたちで資本金を投じないといけません。「桃栗三年柿八年」ではありませんが、投資という種まき(invest)をやってから、その果実を収穫(harvest)できるまで長い期間を要することが多いのが産業の世界です。

脱線すると貨幣の発祥も農作物の収穫時期の差を埋めるために発生したものらしい

 

企業の経営者は目先のことだけではなく、数年先は当たり前で十年、何十年先のことも見据えて、自社の事業計画や投資について考えていかねばならないのです。先々の景気や需要予測だけではなく、金利の動きも注意しないといけません。

 

財政政策や規制緩和と違って、金融政策については多くの人の関心が薄いです。金融政策が景気と雇用にどう結びついているのか説明できる人はごく僅かです。しかし自分がもし経営者の立場になったらと考えてみたら、少しは金融政策の意味がわかってくるのではないでしょうか?

 

リフレーション政策におけるインフレターゲットのコミットメントについては本当に多くの誤解を受けています。その意味は「物価目標達成まで(実質)金利を低く抑え続ける」あるいは「通貨安を維持する」といった強い意思表示を中央銀行総裁が市場に示すことで、民間企業の経営者らが長期経営ビジョンに立って思い切った設備投資や次世代商品の研究開発、そしてわたしたちの所得に直結する雇用を積極的に進めやすくするためです。

 

民間企業といえど、その経営の舵取りは多かれ少なかれ、政府や中央銀行の政策行動の影響を受けます。いまの安倍政権のように強い長期政権で、さらに金融政策の態度も8年近く一貫しているので、企業経営者側も読みがしやすいでしょうが、株価や為替相場の動きが不安定だったり、政権が何度も交代して、おまけに金融政策もいつ中央銀行総裁が金利を引き上げるかわからない状態では、企業経営者は巨額の大型投資を思い切ってやることに躊躇せざるえなくなります。設備投資や研究開発、雇用を抑えた守りの経営を採ってしまうでしょう。

 

政府や中央銀行総裁が経済政策や金融政策の態度を明確にし、それを将来に渡っても崩さないという見通しをつくってやらないと、企業は積極的にお金を遣わないのです。

 

~お知らせ~

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

 
サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
 
 
イメージ 1