やっと本年2回目の記事ですが、今回も合理的期待仮説の話です。

ありとあらゆる人々の行動や活動はその人が次に起きるだろうという予想に従って変わるということを前回お話しています。いま起きている経済活動もまた将来の予想によって決まってきます。

 

日本は過去20数年にも渡り、デフレ不況に喘いできました。企業は設備や研究開発そして雇用といった投資を抑え込み、それによって所得分配が進まなくなって、わたしたちの所得が伸び悩んで不安定化しました。投資はもちろんのこと消費も伸び悩みます。

 

このような状態がいつまでも続くという予想が企業の経営者や一般消費者の頭の中にしっかりこびりつきます。20数年もこうした状態が続いたのですから、非常に強烈な摺込みになります。ちょこっと金融緩和や積極財政をしたぐらいでは効果が出なくなります。一時的にそれをやってもすぐにまた景気が悪くなるだろうという予想を人々が持つからです。

 

そうした頑強な摺込みを払拭するためには「今度こそはデフレ不況脱却させる。そのために政府や中央銀行はきちんとするまで徹底的に金融緩和や積極財政を続ける。」という強い誓約(コミットメント)が必要となります。それがアベノミクスの異次元金融緩和政策で導入されたインフレターゲットです。もう一度言いますが、合理的期待仮説やコミットメントは金融緩和政策だけではありません。財政政策にも使えます。

 

合理的期待仮説の考え方を金融緩和政策だけではなく、財政政策にも利用すべきだと提言されたのが2019年2月にロイターで掲載された岩田規久男元・日銀副総裁のインタビュー記事です。

ロイター

インタビュー:脱デフレへ財政・金融協調を、増税撤回は不可欠=岩田規久男前日銀副総裁

 

岩田先生は次のようなことを仰っています。(以下引用)

資金需要が乏しい中、通常の銀行貸出を通じたルートでは「デフレ脱却を可能にするほどマネーストックを増やすことはできない」とし、「若い世代の実質的な所得を増やすには、国債を発行して、その国債を買った銀行から日銀が国債を買い、お金を彼らに流すしかない。増税ではないので民間からお金が吸い上げられず、必ず民間に流れていく」と語った。

こうした対応によって、若い世代を中心に「消費が増えれば、設備投資も増える」と述べ、「デフレマインドを払拭するには、日銀資金が政府から財政資金としてとうとうと流れ、これが恒久的に続くということにコミットすることが重要だ」と訴えた。

(引用終わり)

 

しかしながら三橋貴明は岩田先生の記事を読んで不遜にも自身のブログで「岩田規久男元・日銀副総裁の正しい転向」なる破廉恥な記事を書きました。

 

三橋の記事より

 さて、元・日銀副総裁の岩田規久男教授。大変、立派なインタビュー記事をロイターに載せていらっしゃいましたので、ご紹介。
  何が立派かというと過去の自説を「正しく変更」されたこと


 ちなみに、わたくしは過去のリフレ派なり、構造改革派なり、緊縮派なりが過去の自説を「正しく変更」された際には、素直に評価します。

~中略~
 まとも(経世済民という意味で)に転向なされた方は、ただ正しいことを言ってくれればそれでいいです。岩田教授が日銀副総裁時代に下記のような発言をなされなかったことを今更責め立て、謝罪の言葉を引き出したところで、日本の現実は変わりませんよ。

 

インタビュー:脱デフレへ財政・金融協調を、増税撤回は不可欠=岩田前日銀副総裁
https://jp.reuters.com/article/interview-boj-iwata-idJPKCN1Q70B3
 岩田規久男・前日銀副総裁は、ロイターとのインタビューに応じ、デフレ脱却には、10月に予定されている消費税率引き上げを撤回するとともに、国債発行を財源として若い世代に所得分配する財政拡大が不可欠と訴えた。財政と金融の協調によって財政資金を日銀がファイナンスし、お金が民間に流れ続けることをコミットすることで、デフレマインドの払拭が可能になると語った。インタビューは15日に行った。 (後略)』

 

 長いインタビューなので、岩田教授の発言のポイントをご紹介。


 岩田教授は、日本のデフレ脱却のためには低迷を続ける「個人消費」がポイントになるとして、10月に予定されている消費税増税については、
「とんでもない」
 と、撤回を求め、増税すると同時に教育無償化をしたところで、
「増税したお金を戻すに過ぎない。若い世代の可処分所得を増やすには、
増税ではなく、成長と再分配政策を組み合わせることが不可欠だ」
 と、主張されました。


 さらには、
日銀の金融超緩和政策だけではインフレ予想を上げることができず、2%の物価安定目標の達成に失敗する可能性が極めて高い」
財政と金融が一致協力して、お金を民間に流ことを真剣に考えるべき
 と強調されましたので、過去の自説(コミットメント理論)を完全に撤回されたことになります

(引用終わり)

 

ひどい、ひどすぎる。

 

岩田先生のインタビュー記事をどう読んだら「(コミットメント理論)を完全に撤回された」などと言えるのでしょうか?むしろ逆です。岩田先生はコミットメント理論を三橋が大好きな財政政策にも使いなさいと言われているのです。三橋は経済だけではなく日本語すらまともに読めないバカです。どうも最近藤井恥は政府が公共事業を継続的に行うという見通しを示せば、建設会社は設備投資や人材育成に力を入れるようになるなどと言っているみたいですが、本当にご都合主義にもほどがあります。ドケンジアン界隈は頭も心も腐っているとしか思えません。

 

「日銀の金融超緩和政策だけではインフレ予想を上げることができず、2%の物価安定目標の達成に失敗する可能性が極めて高い」という発言ですが、彼は”将来のインフレ予想”と”今の物価”の区別がついていないのではないでしょうか?さらに企業の経営者などが抱くインフレ予想を高める意味もわかっていないでしょう。

 

インフレターゲットやコミットメントをやる目的は物価を上げることではありません。企業経営者の投資や事業拡大意欲を高め、研究開発や設備、雇用などにお金をどんどん遣わせることが目的です。もっと細かくいえば実質金利を抑えるためのインタゲやコミットメントです。

 

実質金利=名目金利-予想物価上昇率

でしたね。

 

岩田先生のリフレーション政策の説明は

中央銀行総裁が「2年を目途に2%の物価上昇を目指す。そのためにこれまでにない大規模な異次元緩和政策を行う。」と強いコミットメントを行うことで、企業や個人が貯め込んでいたお金を投資や消費というかたちで遣うようになり、市中におけるお金の動きが活発になって景気回復へと結びつくというものです。そのあとに民間銀行から市場へ積み上げたマネタリベースがどんどん市中へ流れ出していくことになり、貨幣内生的発生説に近いものだと言っていいでしょう。

 

 

それを実行する証としてマネタリーベースをドカ積みして、金利が上がりっこない状態を日銀自らがつくってやるのです。

 

三橋への批判はこの辺で止めておくとして、合理的期待仮説(三橋がいうコミットメント理論)は効果がないのダーという発言はトンチンカンです。アベノミクス批判をするならば黒田東彦日銀総裁らがこれ以上の金融緩和を渋るような姿勢を見せたり、安倍政権が消費税の増税を含め緊縮財政気味になっていて、両者のデフレ不況脱却の本気度が疑われているというべきでしょう。

 

過去の日銀の金融政策は非常に中途半端で、ちょこっと緩和をしてはやめて繰り返しで、生煮え緩和というべきものでした。企業の経営者らに「日銀は金融緩和してもすぐにやめるだろう」という予想を抱かせ、彼らは投資に用心深くなっていきます。労働者=消費者も同じで「政府が財政出動をやったり、日銀が金融緩和なんかやって景気が良くなったように見えても、また化けの皮が剥がれてすぐ不景気になるだろう」「不況がきて自分の給料が減ったり会社からクビを切られるかも知れない」といった負の予想を常に抱きます。

 

量的金融緩和政策は小泉政権時代にも行われましたが、2006年3月に「マイナス成長から脱した」といって、中途半端なところで緩和解除をしてしまっています。その後リーマンショックが発生して再び日本経済が大不況に陥りました。こんな金融政策態度ですと企業は金利上昇を恐れて、思い切って設備投資を行ったり、人を多く雇って事業拡大をする意欲を削ぎます。一方消費者目線でいえば増税や緊縮財政が常にチラつかされており、失業や病気療養、老後のために消費を控え、貯蓄に勤しまねばなりません。

 

金融緩和政策と財政政策共々、一時の規模を大きくさえすればううというものではありません。

大事なことは一定以上の期間、金融緩和や積極的財政政策を続けるということが大事なのです。

 

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