よく今の財政は緊縮財政だと批判されますが、実をいうと財務省をはじめとする役人やそれに絡む政治家たちは決して財政支出を縮小したがっているわけではないということを何度かここで述べてきました。各省庁の役人たちは自分たちの裁量で遣える予算が喉から手が出るほどほしいのです。今の日本は財政危機だというのは茶番劇で、増税によって予算を増やしたくてたまらないというのが本音なのだということです。
国家財政危機を煽る理由は増税の必要性を訴えるためだけではありません。役人たちが支払いたくない支出をなるべく削りたいという思惑もあります。
逆に切りたくてたまらないのは国民に無条件で現金を給付してしまうような制度や政策に対する支出です。お金のない庶民からは何の利益誘導もできません。
表題で「社会保障支出」と書きましたが同じ福祉や医療に関する予算でも新しい介護福祉施設・保育所などの新設ならば建物や措置費用・保険報酬などを通して利ザヤを生む余地が出てきます。新しい施設の理事長や施設長などは役人のいい天下り先になります。福祉でも座布団つきなら意外と喜んで予算をつけたりするわけです。
ここでまた国家財政の歳入と歳出を見てみましょう。
![イメージ 1](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/metamorphoseofcapitalism/20190803/20190803045700.jpg)
歳出の方を見ますと社会保障費の割合が最も高くなっており、3分の1近くを占めています。その次に多いのが地方交付税と交付金です。この2つの歳出項目は法律で決められている支出で役人の裁量で勝手に削ることはできません。毎年毎年支払いが義務付けられた固定費です。役人の裁量で動かせる予算は公共事業費と文教・科学振興、防衛、その他のみで歳出全体の4分の1しかありません。
グラフ引用 「社会保障給付費の推移 - 厚生労働省」
役人目線でこんなグラフを見ていたら、社会保障費を削りたくなってきますよね。
しかしながらここで引っかかってはいけないことは「増税と緊縮財政が余計に財政悪化を進める謎」の記事で申し上げました。少子高齢化の進行で一般会計の社会保障費が膨張しているかのように世間では思われていますが、デフレで社会保険料収入が落ちて一般会計で赤字を穴埋めしないといけないために社会保障費項目が膨れ上がり続けているのです。半分は90年代以降に経済成長をストップさせた政治家と役人の自業自得です。
![イメージ 3](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/m/metamorphoseofcapitalism/20190803/20190803045709.jpg)
役人たちは自分たちの裁量で遣える予算がどんどん目減りしていくのが許せないために、増税と社会保障給付削減をやりたがるのです。というより1997年以降の政治家と役人がしでかした経済失策のツケを増税と社会保障カットで払わせようとしているといった方がいいでしょう。(過去四半世紀の経済成長率は日本が世界最低でビリです。その一方で社会保障給付は一直線に伸びているというわけです。
「デフレと失われた20年 」編で「民主党の子ども手当はなぜ潰れたのか 」という記事を書きました。このサイトで意外にアクセスが多い記事ですが、子ども手当は子どもを抱えた世帯に毎月定額給付金を支給する制度です。半額支給で 2.7 兆円、全額支給で 5.3 兆円の財源が必要となるのですが、官僚たちは自分たちの裁量が入り込む余地のない恒常的な歳出が増えることを許さなかったために、子ども手当潰しをはじめました。ある財務官僚が当時野党だった自民党の林芳正議員に「菅直人は乗数効果のことを知らないようですよ」と耳打ちし、林議員は菅直人に「子ども手当の乗数効果はどれだけか」という質問をぶつけて菅に恥をかかせます。以後菅は子ども手当に冷淡となり、東日本大震災のゴタゴタに巻き込まれて児童手当制度に逆行させられます。
近年ベーシックインカムが話題にのぼってくるようになってきましたが、この制度も財務官僚は必死に潰すか骨抜き化を試みることでしょう。また現金給付ではなく現物支給型ベーシックインカム(→「財政政策は現物(官給品)よりも現金直接給付中心にした方がいい 」で詳しく書きました。)などで役人の裁量を入れ込む余地をつくろうと画策しています。
例え月額1万円程度のベーシックインカムを支給するにしても、他の税控除や社会保障費との相殺がなければ十数兆円もの歳出が固定化されます。子ども手当の5兆円ですら出し渋った財務官僚ですから少額でもベーシックインカムなんかトンデモでしょう。
ベーシックインカムの導入を進めることはかなりの至難の業だということがおわかりいただけるかと思います。
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