とはいえどかけた予算を超える高い便益性や満足を国民に与える公共事業は推進していくべきでしょうし、数多く発生する自然災害や老朽化によるインフラの破壊・劣化の更新を担う土木建設技術者を育成していかねばなりません。納税者である国民が納得する形の公共事業なら賛成です。
まずは乗数理論です。これは政府による財政支出は派生効果によってその何倍もの需要を生み、有効需要を押し上げることに貢献するというものです。真水1兆円の財政支出で1.5兆円のGDP押上げ効果があったなら、乗数効果は1.5です。
政府が1000万円の予算をある会社Aに出したら、A社はもらえたお金のうち半分の500万円を支出し、その500万円を受け取ったB社がまた半分の250万円を遣ってを繰り返していくと、最終的に世の中全体にお金が行き渡り真水1000万円の約2倍である197万円もの有効需要を生むことになります。
乗数理論の数式は、Y=1/(1-c)でcは限界消費性向です。
限界消費性向とは所得のうち、どれだけ消費に回しているかの値になります。10万円手に入ったら、そのうち5万円を消費に使って5万円を貯蓄したらC=0.5となり、さらにこれを代数として1/(1-C)の式にぶち込むと1/(1-0.5)=2で乗数効果2倍という答えが出てきます。
上は政府支出乗数ですが、さらに租税乗数や均衡予算乗数などもあります。
租税乗数とは減税による需要効果を数式化したもので-C/(1-C)=Y/Tです。
政府支出乗数と租税乗数の効果を同じ限界消費性向Cの値で比較してみましょう。C=0.8で計算します。
政府支出乗数 1/(1-0.8)=5
租税乗数 -0.8/(1-0.8)=4
で減税よりも政府支出の方が波及効果が高いとされています。
さらに財政規律を守るために政府が財政支出後にその分を埋める増税を行うという前提に立ったモデルとして均衡予算乗数も用意されています。こちらは政府支出乗数Y=1/(1-c)と租税乗数-C/(1-C)=Y/Tの和=1となります。
政府支出による波及効果は支出と同じ額を増税すると相殺され乗数は1となりますが、それでも政府支出真水分はGDPが押し上がることになります。
ここまでの説明を読まれた方は私が書いた前々回の「「国よる再分配は質量保存の法則と同じ 」や前回記事「国民からお金を遣う自由や裁量を奪っていけない~国家社会主義的思考を撃つ~ 」を読んで「言っていることが食い違っているじゃないか!」「後から税で回収してもやはり財政出動は意味があるじゃないか!」と思われることでしょう。
ややこしくなって申し訳ないのですが、国の財政政策はちゃんと市中全体にお金を行き渡らせる効果があり、全く意味がないことはないのです。ただしモノやサービスとなった財と貨幣のバランスが崩れないか気をつけないとまずいですよという意味で前々回と前回記事を書きました。これらの記事は市中の貨幣が増えた・行き渡ったこととモノやサービスなどといった財が殖えたかどうかの問題を切り離してお話してみたものです。そのことを念押しして言っておきます。
話を政府支出乗数理論や租税乗数に話を戻しますと、限界消費性向が1に近くなれば乗数効果がかなり高くなり、お金が広く多くの人に行き渡りやすくなります。乗数効果が高い財政政策がワイズスペンディング(賢い支出)となります。また生み出された公共財が長期に渡って多くの人々に高い利便性を与え続けられるかも重要です。
一方所得減税や法人減税は0.2~0.7・・・・・・低いですね。
(私の「意見」は「コンクリートから人へ」なのですが、データはデータです。)
次回はこの辺の問題に切り込んでみます。