「リフレ政策で国債暴落やハイパーインフレなどと煽ったオオカミ学者たち 」において、「量的金融緩和政策を進めると出口戦略で日銀が買い取った国債を市中へ再放出すると国債が暴落する」などと騒ぎ立てた債券マフィアというべき金融機関出身のエコミストたちのことを批判しました。ただこれだけですとまだ「国債暴落ガー」という不安が払拭できない人がいるかも知れませんので、金融緩和政策の出口戦略(緩和漸減)のことについてもう一回だけ触れたいと思います。
本来リフレーション政策を行うにあたって、最終的にコミットメントで掲げた物価目標に到達しかけているときも中央銀行総裁ならびに関係者は軽々しく出口戦略のことを口にすべきではありません。「中央銀行はもう金融緩和をやめそうだ」という気配を企業や市場関係者にさとられただけでも、すぐさま株価が急落したり為替相場が買いモードに転じて通貨高を引き起こすといった可能性があります。その結果せっかく回復した企業の投資ならびに雇用拡大が急失速しかねません。アメリカのバーナンキ元FRB議長も任期中の2013年5月に債券の買受ペースを落として緩和を縮小していくような発言をしてしまったために金融市場が混乱して新興国の通貨や株式から資金が流出してしまうトラブルが起きました。これをバーナンキショックといいます。以後バーナンキ議長はより発言が慎重になっています。
現在日本のマスコミや一部エコノミストたちが勝手に金融緩和の出口戦略が近づいているなどという記事や発言をしてしまっていますが、非常に無責任極まりない行動です。バカな記事や発言ひとつで何億・何兆円が左右されるという恐ろしさを彼らは知らないのです。
今の時点(2018年1月)で出口戦略のことを言うのは時期早々にもほどがあります。雇用が回復して失業率がどんどん下がったとはいえ賃金上昇の動きははっきり見受けられません。構造失業率もしくはNAIRU(Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment インフレを加速しない失業率)に到達しきっていない状況だといえましょう。インフレ目標を達成したあとも大事を踏んでしばらく緩和を継続するぐらい出口戦略は慎重にすべきです。特に日本は20年近くもデフレ状態を続けてきた国です。拙速な緩和解除をすれば1~2年も経たぬうちにひょろひょろと経済失速しかねません。
小泉内閣時代に中原伸之日銀審議委員らが進めてきた量的緩和政策を2006年4月にマイナス成長から脱したということで緩和解除をしてしまったのですが、それから間もなく経済が失速し、リーマンショックで激しい需要ショックを受けるに至りました。→弊サイト記事 「拙速な量的金融緩和の解除と景気・雇用の再悪化 」
起きる可能性が極端に小さい国債暴落の危機よりも、病み上がりの日本経済が再失速し、二度と立ち上がれないほど衰弱化していくことの危険性の方をもっと心配すべきです。国内産業が倒産や廃業で縮小してしまえば技術力やモノおよびサービスの生産供給ができなくなり、やがて供給不足インフレ・・・・いや失業増の痛みも加わったスタグフレーションを招きかねません。
まだまだ先の出口戦略ですが、あえてそれを実行するときの話をすると量的緩和の際に日銀が買い受けた国債を慌てて市中の民間金融機関等に売り飛ばす必要なんかありません。中央銀行が国債をそのまま抱え込み続けても特に大きな債務負担が生ずるわけではないのです。(塩漬け化)
そもそも出口戦略とは雇用拡大による国民の所得向上以上に物価上昇が進行してしまうことを食い止めることです。中央銀行が買い取った国債を売り飛ばして中銀のバランスシートを縮小することが目的ではありません。過熱しかけている金融機関の融資や企業の投資をゆっくり冷ましていくようにすればいいわけですので、長期金利を引き上げていくなり、日銀内に設けてある民間銀行用の当座預金に振り込まれた融資のための準備金(ベースマネー)に利息をつけてやって民間企業への貸し出しを抑えるように仕向ければいいのです。
出口戦略についての詳しい解説は野口旭先生にお任せします。
ニュースウィーク 野口旭教授 「異次元緩和からの「出口」をどう想定すべきか 」