自民党から政権を奪い、政権発足当初は70%の支持率も得ていた民主党・鳩山由紀夫政権ですが、普天間基地移設問題等に対する八方美人的で優柔不断な態度が国民だけではなく、アメリカのオバマ大統領(当時)からの不信も抱かせることになってしまいました。それと鳩山氏の脱税疑惑も重なり、発足から1年も経たないうちに倒閣に追い込まれます。
鳩山首相の後継として指名されたのが菅直人でした。菅は自・社・さきがけ政権時代であった1996年当時厚生大臣に就任しており、薬害AIDS問題の真相究明に力を尽くしています。このとき菅が遺族の前で涙を流し謝罪した姿が多くの人たちに感銘を与え、それ以後高い人気と期待を持たれた左派政治家でした。
菅が鳩山に次ぐ総理大臣として推されたのはそうした理由があってのことでしたが、就任からひと月も経たぬうちにその期待は大きな失望へと変わっていきます。政権支持率が極端に急降下したことからマスコミより「ジェットコースター内閣」と揶揄されます。
菅は国会で自民党政権時代の財政出動は「1兆円の予算で1兆円の効果しかないやり方をやってきた」と批判したのですが、これに対し自民の林芳正前経済財政担当相が「乗数効果のことか!」と菅に噛みついてきます。さらに林氏は菅に鳩山政権の目玉である子ども手当の乗数効果はいくらだったかと問い質したのですが、菅は消費性向0.7と答えてしまったのです。さらに林氏は「消費性向と乗数効果の違いを説明してほしい」と追及され、菅はついに答えに詰まってしまい、見事にブーメランを食らいました。
これは左派政治家全体にいえることですが彼らは経済学をひどく蔑視する傾向があります。菅直人もその一人でした。にも関わらず菅は周りから「頭のいい政治家で知識も豊富」と言われ続けたこともあり、ものすごくプライドが高い男です。菅は官僚に対する敵愾心が強く「霞が関の官僚なんて成績が良かっただけの大馬鹿である」と愚別しており、財務官僚との関係も非常に余所余所しいものであったようです。国会答弁のとき官僚が議員に対して行うレクチャーも最低限だけでした。
虚栄心が極めて強い菅直人はこの事件で鼻をへし折られ、大きなトラウマとなってしまうのですが、そこへ一見親切そうな財務官僚が菅に近づき、やさしく経済レクチャーをするのです。二度と恥をかきたくない菅は官僚にどんどんしがみついていきます。これで菅直人の洗脳は一丁上がりですw さらに財務官僚は菅直人に政敵のスキャンダル情報をリークし餌付けするということもやりはじめます。菅直人は勇ましく官僚に噛みつくドーベルマンから飼い主Zに従順なポチに成り下がりました。
そしてもっとひどいのはマニュフェストになかった消費税率引き上げと法人税率引き下げを突然菅が言いだしたことです。
菅のあまりの変節ぶりに多くの国民は唖然とし激しく怒り出しました。これによって60%あった菅政権の支持率が一気にガタ落ちします。さらに同年7月の参議院議員選挙で民主党は大敗し、自民・公明が議席を奪い返します。民主が過半数割れして衆参ねじれ状態の発生です。政権発足から僅かひと月で菅政権はレームダック(死に体)化してしまいました。
自民党の当時総裁は官僚出身が多い公家(まろ)集団である宏池会に属する谷垣禎一氏でした。菅の失策以後、国政は民主・自民・公明の三党合意体制という密室政治で決められていくことになります。菅政権とその次の野田佳彦政権は勝栄ニ郎という超大物財務官僚と谷垣総裁に蹂躙されていくことになるわけです。
次回は日本の経済的地位低下がもたらした尖閣諸島問題の発生です。