量的緩和政策の肝は物価下落を食い止め、名目金利の引き下げにも関わらず実質金利が高止まりしてしまうような状況をとめることにあります。雇用についても同じです。物価が下落し続けると名目賃金を下げても実質賃金が高いままという状況が生まれ、雇用が拡大しません。
物価のグラフを確認しますと2000年あたりから物価下落が止まりかけ、2002年あたり上昇に転じます。実質金利下がり出します。
投資や雇用の動きはどうでしょうか?
量的緩和をはじめた2001年から2002年までは設備投資がかなり落ち込んでいます。しかしその後しっかり増えているようです。”人”への投資である雇用はどうでしょう?
グラフ引用 高橋洋一先生のツイートより
やはり雇用にも同じような変化が出ています。
「雇用が上向いたといっても賃金を切り下げたり、非正規雇用化で増やしただけだろう」という批判については後で触れますが、安倍第一次政権末期までは伸びを維持していたことは確かです。
ここで量的緩和政策がどのような経路で投資再拡大や雇用に効果をもたらしたのか推察してみたいと思います。
前回の記事で量的金融緩和政策で期待されていたことを以下のとおり列挙しましたが、いろいろな経済学者が行った検証やその見解の読み比べをしますと太赤字で強調した経路が強く作用したと言われています。
1 マネーの供給(サプライ)増大が物価下落の食い止め、インフレ予想により実質金利が低くなり投融資が再活発化する。
3 株価・不動産等の資産価格が上昇し、企業や銀行のバランスシートが改善され投融資増となる。
4 準備預金の増加が民間銀行の資金繰り悪化を防止。貸し出しがしやすくなる。金融システムへの不安回避。
5 為替レートが円安基調になることによる輸出促進
1のマネーサプライ増加については日銀内に設けた民間銀行あて当座預金口座に積んだ準備預金=マネタリーベース(緩和期間に35兆円)に比較して、さほど増えなかった点については学者によって見解が割れています。現在日銀の副総裁を務めておられる岩田規久男先生はマネタリーベースの増加率が5年間で年率12%しか増えず、インフレ予想も生まれなかったためにマネーサプライが十分伸びなかったという見解を示しておられますが、マネタリーベースをいくら積んでも銀行や企業の投融資意欲が低ければマネタリーサプライは増えないという反論も出ています。現実にマネーストックのグラフを見てもさほど増えていません。積んだマネタリーベースに対して増えるマネーの供給量の割合は小さくなり、それを示す信用乗数(貨幣乗数) が年々低下しています。(1992年頃=約13→2001年=8→2012年=6)
それでもマネタリーベースを高く積むことを無意味だったと言い切ることはできないでしょう。僅かながらでもデフレの進行を食い止めた効果があったと見受けられます。
あと民間銀行から企業への貸し出しもさほど増えなかった云われていますが、バブル崩壊で毀損していた企業のバランスシートが改善され、殖えた自己資金を投資(雇用)に回し始めるという動きは出ていたようです。緩和政策を続けていれば順調よく消費が伸び、さらに企業の業績が好転すれば銀行から融資を受けてさらに投資(雇用)を拡大していったかも知れません。
金融緩和は為替を下げる効果もあり、それによって輸出企業が復活します。それが雇用縮小を食い止め、就労者全体に行き渡る賃金の総収入が上げることになります。残念ながら2001~2006年の量的緩和のときは賃金上昇や正規雇用の拡大に至る前に緩和解除になってしまいましたが、就業者の数を増やしています。
量的金融緩和政策はやって間違いではなかったとみていいでしょう。