2017年7月~8月にかけてYahoo!ブログにて連載した「バブルの発生と恐慌」編ですが、2019年7月30日に旧記事へ書き加えるかたちで本稿を書きます。

 

2017年当時に「バブルの発生と恐慌」編を書きまとめていたときは、株や不動産、資源などといったものへの投機行為による資産バブル発生と、それに乗ずる民間銀行が過剰な信用創造によって貨幣と債券をどんどん殖やし、信用膨張を起こしてしまうことの問題について書きました。さらにその資産バブル崩壊を機に起きる急速な信用萎縮と恐慌の発生と克服について、戦前の昭和恐慌のときの高橋是清や2006年に起きたアメリカの金融危機に立ち向かったベン・バーナンキFRB議長の功績についても紹介しています。

 

2017年の連載当時はアーヴィング・フィッシャーやミルトン・フリードマンらが導入しようとしていた民間銀行による信用創造の停止と政府貨幣化、100%マネーといったアイデアの復活を望んでいたこともあり、その前口上的な意味合いを込めて記事を書きました。現在の私はそれについて少し冷淡になり、あまり前面に押し出していません。

 

もし恐慌が発生した場合は、2006年の金融危機に立ち向かったバーナンキFRB議長や2013年から第2次安倍政権が打ち出した異次元緩和政策のように、かなり思い切った金融緩和政策を最初に行ない、冷え込んだ民間企業の投資意欲(研究開発費や設備更新、雇用などへの資金投入)を回復させることが第一だという処方箋を私は示します。

 

様々な経済統計を見てみると気がつくことですが、深刻な不況に陥ったときにいちばん落ち込む有効需要は投資(invest)です。多くの人は消費の方を気にしますが、恐慌になったときはまず民間企業の投資が急減し、それが雇用縮小や賃金抑制につながり、人々の消費意欲にも打撃を与えるという順序です。バーナンキFRB議長や安倍政権が推し進めてきたアベノミクスにおいても、民間企業の投資が回復し、雇用の回復につなげています。そういう意味で両者の金融緩和(信用緩和)政策は大成功だったといっていいでしょう。

 

しかしながらそれで満足していいものだと私は考えません。上で「消費よりも投資」と言っても消費を無視するという意味ではないのです。第2次安倍政権が打ち出した異次元緩和政策で企業の投資や雇用は大きく改善したものの、消費側がもたついたままでした。そうこうしているうちに2019年現在、再び景気回復の動きが鈍りはじめてきています。さらに2019年10月にいよいよ消費税率10%引き上げが実施されます。消費の低迷はいっそう顕著になり、これが足を引っ張るかたちでせっかくアベノミクスで回復させた投資や雇用も悪化する恐れがあります。

 

経済学的な模範解答を示すならば需要不足型不況に対応する金融緩和政策・財政拡大政策の両方を全開で進めなくてはなりません。しかしながら過去四半世紀にも渡って日銀が中途半端な金融緩和を繰り返し、財務省が増税と緊縮財政を常にチラつかせることで、金融政策・財政政策共々失効させられてきました。人々の消費意欲や企業の投資意欲が過去四半世紀に渡って萎縮させられてきたのです。

 

日本のバブル景気の失速は当時の三重野康日銀総裁の金融締めつけが元凶だといわれていますが、このとき早く再緩和を行えば民間企業がバタバタ潰れるようなことはなかったでしょう。会社が潰れた後で銀行が「お金を貸しますよ」「金利を下げますよ」といっても遅いのです。バブル崩壊のときに潰れなかった会社も、新しい製品の開発や設備投資、従業員の育成などといった将来への投資をどんどん縮小させてきました。こんな状態ですと、単純に金利を下げるだけの金融緩和政策は効かなくなり、1990年代後半に日本は金利をゼロにしても企業の投資意欲が回復しないという流動性の罠に陥ってしまいます。

 

一方財政拡大政策の方ですが、こちらもまた1990年代後半に効力が失われてしまっていることが顕かになってしまいました。小渕恵三政権とその財務大臣であった宮澤喜一氏は懸命に積極財政を行いますが、「ヘドロにコンクリートパイルを打ち込むようなもの」と言っていいほど、景気改善効果が薄く、国家財政の悪化に滑車をかけてしまったのです。

 

金融緩和政策・財政拡大政策共々、従来の考えが通用しなくなってきています。

 

かなり極端な流動性の罠に対抗する手のひとつは人々の将来に対する予想を転換することです。アベノミクスの異次元緩和政策にもその考えが採り入れられてきました。企業の投資や雇用が回復し、それによって多くの勤労者に所得分配が行き届いて、最終的に消費意欲が伸びて物価上昇が起きるまで、しっかりと金融緩和政策を続けるという強いコミットメントを日銀が行うというものです。「金利が当面上がらない」という予想を企業が持つことで、安心して大きな投資を行うことができるようになります。

財政政策についても多くの人々に「当面増税を行わない」「景気回復まで財政を拡大させる」「人々の所得を保障する」といった約束を打ち出せば、同じ額の財政政策でも消費行動をさらに改善させることができるでしょう。

 

とくに今後は企業の投資意欲だけではなく、国民ひとりひとりの消費意欲をいかに高めるかということに重点をおいた経済政策が望まれます。

 

話が急に変わりますが日本にとって

1990年代のバブル崩壊がファーストインパクトで

2000年代後半のリーマンショックがセカンドインパクト

と言えるでしょう。それは10数年おきに訪れています。

 

そう考えるといまの景気失速はサードインパクトの予兆であると考え、警戒すべきです。

 

今こそ改めて「人々の暮らしのための経済学」を求めていかねばなりません。

 

 
「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」
 
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