投機バブルによって世界大恐慌を引き起こした反省から生まれた貨幣改革構想・シカゴプランですが、アーヴィング・フィッシャーをはじめとする多くの経済学者らの賛同があったにも関わらず、ウォール街の反発によって潰されました。余談になってしまいますが、政府貨幣(統治貨幣・公共貨幣)の発行を行った政治家は暗殺されるというジンクスがあります。南北戦争の戦費を政府貨幣で調達したアメリカのリンカーン大統領やケネディ大統領、そして昭和恐慌のときに国債の日銀直接引き受けという手法を使った高橋是清らがそうでした。暗殺ではありませんがシカゴプランの法案成立を目指していたブロンソン・カッティング上院議員も事故死しています。
そんな都市伝説的な話は置いておいて政府貨幣制度の実現は現在においてもタブー視されており、それを実行しようとすると銀行をはじめとする金融業界やその御用学者(←銀行や証券会社の総合研究所に在籍)たちが猛反発し「ハイパーインフレガー」と発狂します。
 
しかしシカゴプラン提出から80年以上経った2015年、貨幣の発行権を銀行から国民の代表者である政府へ移行させる通貨革命を実現させた国家が現れました。アイスランドです。
 
アイスランドはアメリカで起きたサブ(ノン)プライムローンショックの余波を受けて2008年頃から深刻な金融危機に陥ります。それが起きるまでアイスランドは金融業への依存が極度に高い国で、銀行は15%の高金利で投機家からマネーをかき集め、当時のアメリカで流行っていたサブ(ノン)プライムローン証券のような超ハイリスク・ハイリターン型の金融商品にそれを運用していました。この金融商品の胡散臭さや危険性は「世界大恐慌はなぜ発生したのか その3 サブプライムローンショックとは? 」で書いたとおりです。
 
ノンプライムローンショック後、それをたくさん買い込んでいたアイスランドの大手銀行は当然のことながら莫大な不良債権を抱え込むことになります。ユーロペッグ(固定相場)制は崩壊し、アイスランドの自国通貨アイスランド・クローネは暴落して通貨危機を引き起こし、外貨建て債務が急増したために銀行の経営は極度に悪化しました。アイスランド経済は崩壊の危機に立たされます。
アイスランド政府は非常事態を宣言して国内の銀行を政府管理下におきました。国内のランズバンキ銀行や最大手のカウプシング銀行も国有化し、預金封鎖も実施します。それから銀行の破綻処理を行い債務のデフォルトを断行しました。アイスランドの銀行の預金者は自国民よりもアイスランドの高金利に惹かれた外国の預金者のほうが多数だったので、イギリスやオランダはデフォルトをするなら国交を断絶するとまで言って猛反発してきたのですが、それでもアイスランド政府は自国民に大量の負債を背負わせてまで投機家たちの資産を保護しないといけない筋合いはないとして突っぱねます。当時のグリムソン大統領は債務償還の拒否権を発動し、さらに2度もわたり国民投票を行い圧倒的多数でこれを否決、それによってアイスランドは債務デフォルトを行ったのです。
 
アイスランドが行った金融危機の処理はアメリカや日本がかつて行ったのとは真逆で、銀行を救済せず納税者を保護し、主犯でもある企業役員や銀行家を実際に逮捕して責任を負わせるという本来極めて真っ当な方法でした。
 
それからアイスランドは銀行が融資という行為を通して無からマネーを創造する信用創造を禁止し、政府が貨幣の発行を行うものとします。
 
参考資料 フロスティ・シガーヨンスソン著 早川健治訳
上のレポートはほとんど多くの国の貨幣が民間市中銀行による信用創造で発生し、債務終了と共にマネーが消えるという点をやさしく説明し、それが経済活動の不安定さや金融危機を招く原因となったことが指摘されています。そしてその問題の抜本解決案として政府(統治)貨幣化が有効であるとし、その具体的導入方法を説明しています。まさに現代版シカゴプランというべきものです。
 
2008年の危機を脱したアイスランドは観光産業やグリーンエネルギー部門の仕事を増したことに加え、通貨安による輸出増等の影響もあって経済状況が好転します。失業率は2%以下に改善したようです。
 
アイスランドがこのように大胆な改革を実現できたというのは小国であったことや、知的水準や自主性(DIY精神)の高い国民性だったからこそなのかも知れませんが、(市民)統治貨幣制度が単なる経済学者の構想から現実の政策となったことは非常に画期的なことです。日本やアメリカでこうした革命を起きる可能性は極めて低いかと思いますが、全くの夢物語ではないということを多くの人に知ってほしいと願っています。
 
このようなことを申し上げるべきではないのかも知れませんが、日本やアメリカ、もしくは中国などで大きな経済危機や金融危機が発生する可能性があります。いま日本はアベノミクス効果で本格的なデフレ脱却が期待されていますが、90年代のバブル崩壊と2008年のサブプライムローンショックに続くサードインパクトというべき経済危機に見舞われたとき、いま行っているリフレ政策で再び危機回避ができるとは限りません。そのときのためにアイスランドの事例を頭の隅に置いておくべきでしょう。
 
 
参考 ブーケンビリアンのティータイム様
オラフル・ラグナル・グリムソン アイスランド大統領(当時)へのラジオインタビュー書き起こし
 
 
 
 
 
「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」
 
サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet
 
イメージ 1