先日お話ししたように、日本に定着したセイヨウタンポポは三倍体であり、受粉することなしに種子をつけ、繁殖することができます。
しかし、感の鋭い方は「あれ?」と思われたかもしれません。というのも、通常、植物三倍体には「種子をつくらない」というイメージが定着しているからです。
三倍体とは、染色体のセットを三組もつ個体のことです。三倍体は奇数のゲノム構成であるため正常な減数分裂が起こらず、不稔性(ふねんせい)である(つまり種子をつくれない)場合がほとんどです。
この性質を利用して人工的に作り出されるのが、「種無しスイカ」や「種無しブドウ」といった三倍体品種です。
種無しスイカ
種無しスイカの「種」は、コルヒチンという薬剤によって倍加された四倍体の雌しべに二倍体の花粉を受粉させることによって得られます。種無しスイカは東南アジアでは人気がありますが、日本ではどういうわけか普及しませんでした。
巷ではあまり知られていないようですが、実は「バナナ」もそうです。、私たちが普段食べているキャベンディッシュと呼ばれるバナナの栽培品種は、AAAのゲノム構成を持つ同質三倍体であり、種がありません。
バナナの野生種
二倍体のゲノム構成を持つバナナの野生種は実に多くの種子を含むため、今日では食用とされません。なお、栽培種は種子をつくらないので吸芽の株分けによって増えます。
これは余談ですが、魚類でも三倍体を形成することが可能です。一般的に言えば、三倍体の魚類は不妊であるため、特に産卵すると死んでしまう魚では、寿命が延びて大型化するという性質があります。
三倍体のアユ(左側): 通常、アユは一年で成熟して死んでしまうが、三倍体アユでは二年以上長生きするため大型化する。
養殖魚としては、アユやニジマスの三倍体が開発され、流通しています。とりわけ、三倍体の大型ニジマスは、寿司ネタ等においてサーモンの代用魚(ないし偽装魚)として用いられることがあり、知らずに口にしているかもしれません。
ちなみに、哺乳類においては三倍体は致死であり、ほとんどの場合、早期に流産となります。実は、自然流産の原因の多くが染色体異常であることが分かっており、特に40歳以上の場合では流産の原因の80パーセント以上が「トリソミー※」であると言われています。
※すべての染色体が三倍になる(三セット持つ)個体を「三倍体(トリプロイド)」と言うのに対して、「トリソミー」とは染色体の部分重複のことを言う。ヒトでは13番、18番、21番染色体トリソミーを除いてほぼ致死的である。21番染色体トリソミーは特にダウン症候群として知られている。