剣道入門征一が小学4年生の頃だったか父親が「お前は明日から剣道をやれ」と言った。断る権利などない。本人の意思に関わりなく、後藤家では父親が絶対君主だった。もともと読書などが好きで、スポーツが不得手な征一にとって、武道などはただの苦痛でしかなかった。しかし、父親は、剣道のおかげで背筋がしゃんと伸びただの、声がはっきり出るようになっただの、一人ご満悦だった。征一は、幼いながらに薄々思った。(この男は、人を思い通りにしたい種類の人間だ)