なぜFP(ファイナンシャルプランナー)は定年退職後に残る住宅ローンを許さないのかずっと不思議に思っていた。絶対許さないおじさんのごとく、老後のための定年までに貯めてきた貯金や退職金で、退職後に残った住宅ローンを完済させようとする。完済しなくてもいいですとアドバイスしている記事を一つも見たことがない。

はっきり言って仕事を止めた(正社員の給与収入がなくなった)からって住宅ローンをすぐに完済する必要はないと思っている。仕事をしていようがしていまいが、住宅ローンには全く持って何の影響もなく、仕事をやめたからといってすぐに完済しなければいけなくなる理由なんてものはない。持っているお金で一括で返済しようが、それを切り崩して分割で返済しようが、どっちでもいいのである。むしろ一括で返済してしまうと生命保険的な役割も果たす住宅ローンを無くしてしまうデメリットの方が大きいのではないかとさえ思う。

退職時に住宅ローンが残り2,000万円であと15年分が残っていたとする。金利が1%だとすると毎月の返済額が12万円くらいで、返済までに支払う利息は155万円くらいになる。確かに住宅ローンをすぐに完済させればこの利息分の155万円が浮くことになる。しかし、手持ちの現金2,000万円と15年間の残額相当の団信を失うことになる。老いてくれば新しく生命保険をかけるのも難しくなるだろうし、もし不幸があって完済した直後に亡くなってしまった場合はその分の現金が残された家族に残らなくなってしまう。

利息分155万は少なくない額であるのでそれを節約したくなる気持ちもわからなくはないが、生命保険代わりに諦めて支払ってもいいし、住宅ローン金利以上の利率で運用をすることができたら逆にプラスにもなる。FPのアドバイスにはこの資産運用の視点が見当たらない。

ここからの話は個人的な憶測になる。投資などの資産運用はプラスになることもあればマイナスになることもある。FPも仕事でやっているため絶対プラスになりますと無責任なことが言えないのである。ところが住宅ローンをすぐに完済した場合は、確実に利息分の支払いが不要になる。確定できるところだけで確実に利益が見込めるので、不確定要素の部分は排除して確定していることだけをアドバイスするのである。それならば確実に失敗することがないから。

確かにリスクを排除することも選択肢の一つだとは思う。しかし、リスクを取らないのならば確実にリターンは見込めない。何かしら成功するためにはリスクは取らないといけない。ローリスクのものはローリターンでしかない。ローリスクハイリターンなんてものはこの世に存在しないのだ。

勘違いしてほしくないが、ハイリスクなものを取ることを推奨しているわけではない。リスクを取らない選択をすることも時には必要だろう。ただ運用だろうがビジネスだろうがリスクを取らない限りは、リターンは限りなく低いということを知ってほしいだけである。自分自身で許容できるリスクかどうかを判断して選択してほしい。