住宅ローンの繰り上げ返済のメリットとして、総返済額が減る、返済期間が減る(返済期間短縮型の場合)、毎月の返済額が減る(返済額軽減型の場合)などがあげられる。借金をしていることが精神的な負担と感じてしまうと、少しでも早く借金から解放されようと繰り上げ返済に走ってしまうようだが、今の時代、繰り上げ返済をするメリットはあまり感じられないと思っている。

繰り上げ返済をすると総返済額が減るのだが、これは繰り上げ返済で減少した元金部分に対する利息の支払いがなくなるからである。それ以上のメリットはない。したがって、住宅ローンの金利が高ければ高いほど、残りの支払い期間が長ければ長いほど、繰り上げ返済の効果は大きくなる。しかし、いまは住宅ローンの金利がとても低いので、相対的に繰り上げ返済の効果は小さいと言わざるを得ない。例えば、5,000万円の35年ローンでローン金利は1%、10年後に100万円繰り上げ返済した場合、約28万円利息が軽減する。100万円が25年間で28万円分である。もし100万円を2%の複利で運用できた場合、25年後には約164万になっている。想定通りに運用できた場合は繰り上げ返済しない方がお得になってしまう。

それでは、繰り上げ返済のデメリットは何か。一番のデメリットは、繰り上げ返済をする分、現金が手元から消えることである。繰り上げ返済をしなければ他の用途にも自由に使用できるはずの現金が住宅ローンの返済に使用され、その分現金に余裕がなくなってしまう。極端な話をすると、繰り上げ返済がお得だと思ってギリギリまで繰り上げ返済を行ったとする。その後に事情が変わってしまい現金が必要になったとしても、すでに手元にお金はないので現金を用意することができなくなる。もし株や投資信託などに姿を変えているのならそれらを売れば現金を手にすることができるが、繰り上げ返済に全額使っていた場合は売ることができるのはまだローン返済中の家しかないのである。


他のデメリットとして、住宅ローンの残債が減ると団信の保証金額も減ることや住宅ローン控除の期間内の場合は控除額が減ったりなくなったりすることだろうか。住宅ローンで団信に入っている場合、住宅ローンがあることは生命保険の代わりにもなる。ガンガン繰り上げ返済をしていっても、もし亡くなれば残るのは家だけである。繰り上げ返済をしなかったなら、家と繰り上げ返済にあてなかった分の資金がそのまま残る。保険の観点でみた場合、その分他に生命保険をかけなくて済むため、無理して繰り上げ返済をする必要もない。住宅ローン控除も繰り上げ返済をすればその分控除額が減ってしまう。期間短縮をした場合、住宅ローン控除そのものが受けられなくなる可能性もでてくる。

以上から、基本的に繰り上げ返済はする必要がないと思っている。それでは、繰り上げ返済をしてもいい場合はどんなときなんだろうか。繰り上げ返済をしないメリットとして、もしものときの現金を手元に残しておけること、手元の資金を株や投資信託などへ投資することができること、などがあげられる。ということは、手元に現金の余裕があり、株や投資信託などの運用もしていて、他にも運用先を探している場合は、その候補の一つとして繰り上げ返済をあげることもできるだろう。得られる利益(支払う利息の減少分)は恐らく他の運用先の利回りよりも低くなるが、得られる利益は確定しているので、分散投資先の一つとして考えてみるのは悪くはないとは思う。繰り上げ返済にまわした資金はあとで回収することはできないが、手元資金がダブついているのなら考えてみる価値はある。あくまでも繰り上げ返済をすることが目的ではなく、運用の手段の一つとして繰り上げ返済があると考えることである。