前回までは 住宅ローンの頭金 と 金利タイプ について書いたが、今回は返済期間について考えてみる。
住宅ローンの返済期間は長ければ長いほど毎月の返済額は少なくてすむ。逆に短ければ短いほど毎月の返済額は増えていくが、その分支払う利息が減っていくので総返済額も少なくなる。期間が短い方が総返済額が少なくなるからといって、返済期間を短くできる人は短くした方がいいというのをどこかで見ることがあるのだが、本当にその方がいいのだろうか。
例えば、5000万円を金利0.5%で借りた場合、35年ローンと20年ローンの支払額の違いは下記のようになる。
35年ローン 毎月の支払額:129,792円 総返済額:54,512,740円
20年ローン 毎月の支払額:218,966円 総返済額:52,551,957円
毎月の支払額の差は約8.9万円、支払総額の差は約196万円である。35年間でたったの196万円くらいの差にしかならず、年間で割ると約5.6万円なので、毎月5千円もかからない負担金で月の返済額を9万くらい抑えることができる。
今は金利が安いので返済期間の差からくる金利負担の差も少なく、できるだけ長い期間で借りた方が毎月の返済額が減り、その分毎月の自由に使えるお金が多く手元に残せるようになる。資産運用している人は、返済期間が長ければ長いほど運用にまわせる資金をより多く用意できるようになる。
手元に自由に使えるお金が多く残るこのメリットが分かるように説明していく。返済期間が短いと毎月の返済の差額が強制的に住宅ローンの返済にあてられているということと同じで、逆に期間が長ければ差額を用途に限られず自由に使えるようになる。これには貯金や投資をするという選択肢だけではなく、もちろん住宅ローンの返済をするという選択肢もある。返済期間が短ければ強制的にローンの返済一択しかなくなるが、返済期間が長ければそれ以外の選択肢も選べるようになり、その自由にお金を使える権利を得るために、毎月少しだけ多くの利息を支払うということをする。先の例だと支払いが年間5.6万円程度(毎月5千円弱)増えるだけで、自由に使えるお金が年間100万円以上残せるようになる。
その毎月少し多く払う利息が「もったいない」と感じてしまうなら、いったんその感覚をリセットしてみた方がいいと思う。一度フラットな状態に戻してからまた考えてみることを勧める。
例えば、保険に多くの金額を支払っている場合、その毎月支払っている保険料は「もったいない」とは感じないのだろうか。保険は「もしも」の時がこないとペイせず、その不幸な事象が起きなければ支払ったお金が返ってくることはない。では、住宅ローンの返済で「もしも」が起きた場合はどうだろうか。団信が使える「もしも」だったら保険金で返済されるので問題ないが、それが使えずローン返済が厳しくなったときは、貯蓄があればそれから支払い、それが厳しくなればいずれ家を売却することになるだろう。もし毎月の返済額が少なく手元に資産がより多くあれば、毎月の支払いが厳しくなることが起きないかもしれないし、厳しくなったとしても立て直すまでの時間を多く作ることができ、家を売却しなければならないことになるのもずっと少なくなるかもしれない。これを得るために支払っている利息は「もしも」のときの保険料と比べて「もったいない」のか。
更に言うと実はその利息の負担は限りなく減らすことができる。運用が好きな人は毎月の差額で利息以上に運用益をだせば利息を気にする必要はなくなる。運用が好きでない人でも毎月の差額を繰り上げ返済していけば利息の差なんて本当に誤差にしかならなくなる。いまは繰り上げ返済は手数料がかからないところが多いので頻繁に繰り上げ返済しても損することは何もない。返済期間が短ければ強制的に住宅ローン返済にあてられるが、返済期間が長ければ住宅ローン返済にあてることもあてないことも選択することができるのである。あてることを選んだ場合は、先の例で5千円くらあった月の利息の差が50円にもならなくなる。このくらいの金額で済むのなら運用する気が全くない人でも、自由に使い道を選べたほうがよいとは感じないだろうか。
まとめると、目先の総返済額の少なさで返済期間を短くするとお金の使い道の自由の権利を失い何も選択することができなくなり、「もしも」のときにも何もできなくなる。逆に返済期間を長くすれば毎月の返済額の差額の使い道を自由に選択することができ、「もしも」の時にも十分対応することができるようになる。使い道を住宅ローン返済にあてれば利息の差はほぼなくなり、運用にまわせば運用成績によってはプラスになることも可能である。ただし、自由に使えるからといってそのお金で無駄な消費をすれば全てを台無しにする「もったいない」ことになるので注意が必要である。