アキが産んだ仔猫5匹はある程度育って、そのうちの4匹がもらわれた後、アキは少しずつ普通に戻った、ように、記憶する。
アキとひとり息子の石松は仲良くやっていたと思う。
でも2人は気質が全く違った。
アキは気が強く、プライドが高い。
一方、石松は……私が「石松」って、かっちょいい名前をつけたのに、どこが「石松」なんか、ず〜っとオドオドしてるボクちゃん猫のままだった。
そうなったのは、少し私達のせいもあったかもしれない…
アキの尻尾は、長くてぴいんとしていて、いつもそれを満足気にゆさーっゆさーっとさせていた。
石松の尻尾は、先っちょが、妙なコの字型に堅く曲っていて、それらはまったく対象的だった。
それで、私たちは、石松の気持ちをあんまり考えないで、石松の尻尾の不細工さを少し笑ったりしてた。だって、アキの尻尾は優雅という表現がぴったりなのに、石松が尻尾を振ると、ゆらりとは程遠く、いびつで、床に当たった時に「コツンコツン」と音がしてたように思う。それで、つい私たちは、「……イシマツ、かわいそうになー…」という目で見てしまってたと思う。それがたぶん、繊細な石松の心に伝わってたんだと思う。ごめんやで、石松。
いつも、何となく自信なさ気にしてたもんな。
ごめんな、石松。
他人がうちに入ってきた時は、アキは応戦体制にいたと思う。アキは、もし隙あらば立ち向かうぞって空気をかもし出していた。
一方、石松は、他人が玄関に入った途端、即座に玄関ホールのそばの階段を、ものすごいスピードで、必死のパッチで一目散に駆け上がり、しばらくどこかへ姿をくらました。
客人が帰った後、私たちは石松を探す。
石松はなかなか見つからなかった。
どこに隠れているのかわからない…
長い時間、探し回った後、妹が
「おったー!石松、おったでー!!!」と叫ぶ声が聞こえた。
何と!石松は妹のベッドの下、厚いマットレスを包む底側の布切れが(古くてボロいから)少し破れたところからマットレスの中に入り込んで、小さくうずくまっていたと言う。
「……こんなとこまで入らんと怖いのか、、、」と私たちはまた、石松の事を憐れんでしまっていた、と思う。
そんな石松だったが、
ある時、石松が豹変する姿を見た。
私たちの家のお隣さんは、いわゆる世に言う動物おばさんが住んでいて、大きな一軒家の裏側にトタン屋根をつけて、広めの動物小屋スペースを作って、犬、猫、その他鳥とかを何十匹と飼っていた。
おばさんは、じぶんちの前庭はとても綺麗にしていて、剪定された庭木がたくさん植えられていた。
そのおばちゃんは、ある時しゃーしゃーと言った。「うちの猫たちは、何も教えもせんでもうちの庭ではオシッコもウンチも何も悪さしないんやわ〜」と。
おばさんの動物小屋からの猫専用の小さな隠れ出入り口はなぜか、うちの庭との境のコンクリ塀の上に乗っかるように作られていて(そのことは他人に対して寛容な母でさえ、かなり怒っていた)、いかにも「さあここからお隣さんの庭に出て行きなさいよー」というのが丸出しだった。
そのたくさんの猫、たぶん推測だが、仔猫も合わせて20〜30匹くらいいたのではなかろうか…動物おばちゃんはいつもその匹数には口を濁していた。
その猫たちは、自分ちの庭は荒らさないくせして、私のうちの庭を我がもの顔でのし歩き、そして木によじ登り、オシッコ、ウンチをする奴らだった。私の作った花壇も荒らされた。母の自慢の松の木もボロボロにされた。母は内心怒りながらも、お隣と揉めたくない一心で我慢していたんだと思う。
私のうちは、家の居間から縁側のような感じで、ガラス張りに庭がドーンと筒抜けに見渡せた。
ある時、どこかの猫が、うちの庭をのし歩いてる隣の猫に向かって、「ぐゎん、ぐゎん、ぐゎん!ぎゃぎゃぎゃぎゃ〜〜〜〜ん!!!」と吠えまくり、ものすご〜い剣幕で追いかけまわしているのが見えた!
私はその時、一体何事が起きたのかと思った。まるでヤクザかチンピラが狂ったように吠え立てるぐらいの勢いだったから。
よ〜く見ると、
それは石松だったのだ。
おお〜!
おおお〜〜〜!!
おおおおおお〜〜〜!!!!!
石松はたぶん、
「お前ら、俺の家になんで入っとるんやーーー
何様と思ってるんじゃ〜!
ここは俺のうちや!
はよ出て行かんかーい!!!
許さへんぞ〜!!!」
ただめちゃくちゃ怒りまくり、吠え立て、猛スピードで追いかけ回し、がむしゃらになって蹴散らしているのだった。
私は、あの石松が……
ちょっと…うるうる感動したくらいだった。
アレは猫の縄張り防衛本能って奴なんだろう。
石松が怒ってるのを見たのはその時だけです。
そんな雄々しい姿も垣間見せてくれた石松だったけど、
やはり最後はおもろい話に戻そうと思う。
(以上の写真はすべてはるかの猫写真アルバムよりお借りしました)
我が家のキッチンのテーブルは、昭和のその当時流行った、真ん中に四角いはめ込み式のお好み焼きも焼ける鉄板と鍋のできるコンロがついているテーブルだった。
ある冬の夜、私たちはほっこりと鍋を囲んでいた。
土鍋の下にコンロの火がついていた。
石松は小さい頭を、鍋とガスコンロのその隙間に向け、覗いていた。
すると、突然、ガスの火が石松のヒゲにボワっと引火して、石松はびっくらこいて跳び上がり、私たちも大慌てでかき消したが、
石松の燃えたヒゲはそのせいで一瞬にしてクルンクルンになった。
猫のヒゲはフツウはピンとしてるものだ。
それが一瞬でクルクルヒゲになってしまって、
私たちは、その顔つきがあまりにおかしすぎて、腹を抱えて笑ってしまった。
でも、その時の石松のあわれというのか寂しげな顔つきもまた忘れられない。
慌てて写真も撮ったが、もうどこにあるのかわからない。
とにかく、滑稽で、おもしろく、そして、かわいそうだった。今は、石松のことを思うと反省している。
けれども、私たちはその時はかなりひつこく、笑ってしまった。
アキと石松の話しはこれでたぶん完了。
なんだかなー、
石松……
ウィーラブ♡イシマツ やで。
「はるかの絵の本」できました。