アキは、とても美しい猫だった。
石松は、どんくさい猫だった。
当たり前だが、美味いものには目がなかった。
普段のご飯は、病院指定のキャットフードだったが、アキも石松も、何故か天津甘栗が好きだった。
それは、私達娘2人のために母が買ってきてくれたのをつい食べさせてみたら、あの子達も病みつきになったのだと思う。
赤いあの天津甘栗の独特の袋が懐かしい。
母は世話好きで、私達のために、硬い皮を2つにぽろんと割ってむいたのを一人一人に渡してくれた。
その中になぜか、アキと石松もきちんとテーブルの椅子にちょこんと座って、4人が並んで、母のむく天津甘栗が配られるのを待つ・のが当たり前のようになってしまっていた。笑
母は、栗を剥いては、はい、Q子、はい次、K子、はい、次、アキ、はいはい、次、石松、、、そんな感じで、剥かれた栗は順繰りにそれぞれの口に入った。
なんかさー、それがごく当然のことで、人間みたいに、私と妹とアキと石松、行儀よくテーブルを囲んで座っているのがおかしかった。
アキは、美しい猫だった。
石松は、どんくさい猫だった。
それなのに、
あーそれなのに、
美味いものには飼い主の目を欺いて、ガツガツと食いついた。
ある大晦日の夜、母が正月用に特別に鯛の塩焼きを買ってきていた。
猫は魚が好きである。それで母は、用心してその夜、台所と風呂場の間にあった納屋みたいなとこに置いてある洗濯機の上にご馳走の鯛を避難させていた。ここなら大丈夫だろう。。。と。
ところがどっこい、元旦の朝、起きてみたら、見事なお頭付きの塩焼き鯛は、無惨に食い散らかされていた。
あー、あー、あ~~~~~~ん!!!
犯人はどっちかわからない。
たぶんアキの仕業と私達は思ったけど。
仕方ないから、元旦から、食い散らかされた鯛をひっくり返して、私達は裏側から残りをしょぼしょぼと食べた。
アキは「高貴な顔してる」と猫好きのおばさんに言われたことがあったが、
高貴ってどーゆーことなんだろー?
あのこ達のしたもっと酷いことも聞いた。
私が東京に出た後、妹が結婚することになり、
結納というのを家でしたらしい。
私は結納というのをしたことがないから、詳しくは知らないけれど、床の間に、それらしいものをたくさん飾って、婿様のご家族をお呼びして、格式高い形整った行事であろうことぐらいは想像できる。
あちら側の息子殿と御両親をお迎えした時、床の間に飾ってあった、金ピカの水引の飾りものの中になんでかわからないけれど、スルメと昆布があったらしい。たぶん立派なスルメだったんだろう、、、、、それらが、見るも無惨に食い散らかされていた…と後で聞いた。
ねえ、教えて欲しいよ、
高貴と言われたアキ、確かに風格はあったが、一体なんなんだ~~???
スルメがそんなに食べたかったんかい???
昆布もそんなに食べたかったんかい???
引き出物のお飾りみたいなその時だけしか要らなくて、しかも、その時はなくてはならないものがポロポロズタズタを目の前にし、結納式をあげた妹たち夫婦。
その場を想像するだけで、私は汗が出そうな気分になってしもたよ。
もう、ずいぶん昔のことだが、、、
ほんまにやってくれるよな、アキと石松。
死んでから、もう20年以上にもなるけど、
忘れられないなー、アキと石松。
次回は「アキが、ヒトを、襲う!」であります。
「はるかの絵の本」できました。