昔、私は若い頃にアキと言う美しい猫を飼っていた。



アキは、大学の同級生から頼まれて夏休み一時的に預かっただけだったけど、預かっているその間に情が移って返すのが辛くなってしまい、おねがいして彼から譲ってもらった。うちに来た当初は、階段の下で、しおらしい声で私を呼び、移動するのにも遠慮があったみたいで、か弱い声で「にゃおーん」と私を呼んでから、私の後をついて回るそんな感じだったのに~~いつのまにか、アキは変身していった。
 
私達は、狭い家から少し広い家に引っ越した。

そこで、アキは女王さまのごとく振る舞った。

朝起きたら、餌の皿の前でじぃーっと無言で座る。身体は動かさない。振り向きもしない。
はよ、ご飯を入れなさいと威圧する感じだった。

すぐにご飯を入れない時は、ニャん!とひとこと言うだけ、身体は不動。
私たちはそのひとことに従った。

私の(大学時代)の部屋は2階の奥にあったのだが、アキは私の部屋に入りたい時には、
扉の入り口の前で「ニャン!」とひとこと短く発するだけ。ひとことだけ~ッ!

それで私たちは彼女のニャン!に従った。

これ以上何がいう事あるねん!て感じ。
ほんま、生意気な猫やと思ったけど、アキの地位は私の家で確実に高くなっていった。


それでも、私達のことは、家族というか、仲間意識がしっかりあったようで、家族の誰かが外出する時は、家の門を出てから、しばらく直進して、そして角を曲がって消えるまでは、アキはいつも私達のお出かけを角から消えるまで、門を出たとこ、道路の真ん中でじっと見守ってくれていた。最後まで、不動の態勢で。




アキは、とても美しい猫だった。

私はその頃持っていたベネチアグラスのちっこい額縁にアキの写真を入れたのが、今もある。チオちゃんと一緒にベニスに旅行に行った時に買ったものだ。その繊細なベネチアグラスのちっこい額にアキの写真はなぜかほんとに不思議なくらいピッタリ収まっていて、今回の荷物移動で、はるかとチオの骨のそばにアキの写真も並べてあげた。


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アキは、その間、仔猫を五匹産んで、うまいこと4匹はすぐに貰い手が見つかった。
一匹だけ、尻尾の曲がったチョイ惨めそうなのがいて、哀れげだったから、オスだけど手元に残した。なんかさー、あんまり尻尾がブサイクだったから…可哀想な感じがして手放せなかった。
私はその子に「石松」と名前をつけた。
大学卒業後、私が東京に行ってからも、実家の親と妹が長い事この2匹を飼ってくれた。けど、歳長く生きて、アキはもう随分昔の正月過ぎに亡くなった。私はその時すご~く悲しかった。 遠く離れた福岡の地でアキを思いだして、泣いた。



その後、尻尾の曲がった哀れな石松のはなし。


石松は雄だったけど、アキがいない時はいつも所在なさげで、一言で言うと 意気地のない雄猫だった。
あんまり早くに去勢手術をしたからこない可愛そな感じになったんかなー(手術して家に帰ってきたのを見ると、ちっこい丸いおチンチンに短い針金がたくさん刺さっていたように思う)……可愛そうに…と私たちは石松を見ていたけれど、親ばなれできないのはどうしようもならない事だった。

アキがいない時は、
いつも、「アキはどこ?アキはどこ?どこ?どこ?」と言わんばかりに探し回っていた。

身体が大きくなって、お乳がいらなくなっても、そしてアキのおっぱいもたぶん出なくなってたと思う。それでもアキのオッパイにいつまでも吸い付いて、石松にはもうしっかりと爪が生えてて、アキの乳首の周りは、石松の吸い傷とシガシガするからその爪あとでかわいそうなぐらいかぶれてしまっていた。私たちが、コラっ、もう離れ!アカンと言っても、隠れたところでチュパチュバ、私たちが見つけると、クッと首を少しだけそらして、吸ってませんよーととぼけたポーズをとるので呆れた。気の強い雌猫のアキも、絶対痛いはずなのに、抵抗せず我慢していた。

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石松は、そんな感じで、成長途上のまま、大きくなってしまい、ちゃんと猫トイレを用意してるのに、ふかふかの座布団、新しいベッドカバー、気持ちのいい布を見つけては、オシッコをしてくれた。
困り果てて、、母は、客が帰ったあと、客用の座布団を縦に壁に立てかけておいた一時でさえ、座布団がずれて、すこーし小さい三角のスペースができたところに、石松は上手にオシッコをした。

他にも、色んな事があったが、、


そして……とうとう、……本当にアキが死んだ。

私は、アキを燃やす時、私の写真を入れてほしいと母にたのんだのだが、
それから、なんにも返事がもらえなかった。

しばらくして、母に電話したら、

アキが死んだ後、アキがいない時、あんなに「アキはどこ?どこ?」と「ニャーン」と泣いていた石松なのに、アキが死んでから、ひとことも声を発することがなくなり、一週間後に静かに死んでいた事を告げられた。

石松の写真は今、手元に見つけられないけどない、多分、オカンと一緒にあの世で幸せにしてるだろう。




「はるかの絵の本」できました。

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