前回はこちら から




『ここがお前らの席ね。』



案内されたのは、他の席とは少し離れた端っこの長机。


机の上にはポツンと電話機(家庭用)だけがおかれていた。


当然、引き出しとかはない。


何が起こってるのか?ここはどこなのか?未だに理解できていない僕達。


そんな僕達に部長から紙が2枚渡された。


1枚は【トーク】と書かれていた。いわゆるマニュアルなのであろう。


なるほど、この通りに読めってことね。


もう1枚には【リスト】書かれ、企業名と電話番号がずらりと並んでいた。



『じゃあ、とりあえずコール(電話)してみようか♪』



・・・はい??



ちょ、ちょっと待って。


そりゃね、さっき小1時間の研修は受けたけど、話し方とか実際にどういう流れで業務やるのかとか、


まったく説明ないんですが??



『え~っと、、、まだほとんど内容をわかってないんですけど・・・』


『え?さっき研修したじゃん?大丈夫だよ、やってれば慣れるから。』


『やってればですか・・・。


お客様から質問とかされたらどうすればいいですか??』


『とりあえず、質問内容を繰り返しながら、さっきの研修思い出せ。


それでもわからなかったら・・・』


『わからなかったら?』


『とりあえず、大丈夫です!!って答えておけ。』



・・・こ、この人は何を言ってるのだろう??



『いや・・・ぜんぜん大丈夫じゃないと思うのd・・・』


『じゃ、俺忙しいから。どうしてもわかんないことがあった時だけ声かけろよ。』


『いや、どうしてもどころか、わからないことだらk・・・』


『いいからやれって。あと、全部電話し終わったらこい。じゃあ後で。』



部長はそんな返答をした後、PCに向かって何かを始めてしまった。


しかも、ユーロビートに合わせてノリノリで縦ゆれしてる。



・・・うん、きっとこいつは俺とは違う生き物だ。




一緒に入社した川越君も戸惑っている。


そうだよな、それが普通の反応だよな。。。



さて、どうしようか。

とりあえず、渡されたマニュアルに目を通してみる。


ん??


よく見ればマニュアルが途中で途絶えていた。


しかも、最後の方にエントリー後、用紙を送るからそれで仮登録がナントカコウトカ・・・と書かれていた。


営業でこっちから電話した挙句、電話だけでエントリー?


アポイントじゃなくて?


まったく意味がわからない。


そもそも、企業が電話だけで申し込みとかするものなの??


これは・・・聞いてもいいことだよな?



困って川越君のほうを見てみる。


マニュアルを読んでいるように見えるが、焦点が定まってない。


気持ち、手も震えているように見える。


どうやら、意識だけ違う世界に旅行中らしい。


・・・お疲れ様でした。



仕方ない、部長に聞きに行くか。


『すみません、このマニュアル、途中で切れてるのですが・・・』


『え?マジで??


・・・本当だ、切れてるな。


まあいいや、そこからは自分で考えろ。』


『はい??しかも、エントリーとか登録ってあるんですけど、電話だけで申し込みをしてもらうんですか??』


『え?そうだよ。いいから黙ってやれって。どうせ初めはそこまで読めないから。』


いや、そういう問題じゃなくて・・・


部長は激しく貧乏揺すりをし出す。表情も強張ってきた。


『なに?まだなんかあんの??そこまで話が進んだらまた聞きにこいよ。』


『・・・わかりました』


うん、こいつ終わってる。



席に戻り、もう1度マニュアルを読む。


『何聞いてきたの??』


川越君が不安な顔で聞いてきた。


『いや、このマニュアル、後半が切れててないんだよね。』


『え?・・・あ、本当だ!!』


やっぱり、さっきまではマニュアル読むフリして、別の世界に行かれてたのですね。


はぁ・・・自然とため息が漏れる。



その時、


『○○君、成約おめでとう~!!!!!!!!!(パチパチパチ)


おそらく先輩であろう人(スーツを着てたから)が、急に拍手をしながら立ち上がって叫び出した。


無駄に大きな声。


一人だけの大きな拍手。


スタンディングオーベーションか?


欧米か?



周りのスタッフは迷惑そうに机の下にもぐったり、受話器を手で押さえたりと、必死で叫び声が電話に

入らないようにしている。


何?わざわざそんなデカイ超え出す必要あんの??


恥ずかしくないの??


・・・なんなんだよ、この会社。


今日何度目であろう、ため息が漏れた。



『何ボーッとしてんだよ。早くかけろって言ってんだろ?』


いつの間にやら近くに来ていた部長が怒り気味に声をかけてきた。


『・・・すみません。』


仕方ない。とりあえず今日はやってみるしかない。



リストをみて電話をかけ出す俺と川越君。


確かに部長の言うとおり、電話をかけてみると担当者が不在だったり、


たまに担当が出ても『営業ならけっこう』と一蹴されてしまうことばかりだった。


そんな中、次の会社名をみてみると○○銀行となっていた。


ん?冷静にリストを見直してみる。


そのリストに載っているのは、どこも上場企業や世間で言う一流企業ばかり。



あれ?これ、おかしいぞ。


その会社が提供するサービスは、間違っても大手向きではない。


むしろ、零細企業や個人経営の方に向いているサービスだ。


なのに、なんでこんな大きな会社ばかりなんだ・・・


川越君のリストを覗くと、そっちも同じような会社がズラリと並んでいた。


とりあえずアポイントでもとれってことなのか?


まだ教えられてない大手向きのサービスでもあるのか?


疑問が次々と浮かんだ。


まあいい。


投げやりの開き直り、もうこのまま息を引き取りたい状態になっていた俺は、


疑問を頭から振り払って電話し続けた。


もう何も考えたくない。



川越君を見てみる。


川越君、ずっと1のボタンを押し続けてもどこにも繋がらないよ。。。


・・・本当、お疲れ様です。



1時間ほどで渡されたリストは全て電話をかけ終わった。


ふぅ。



再度、川越君をみてみる。


口から霊魂が出てるとは、こういう状態を言うのであろう。


・・・骨は拾うよ。



『部長、全部かけ終わりました。』


『おう。で、成約は??』



・・・せ、成約?


この人は何を言ってるんだ?


さっき、自分でそこまで話が出来ないとか言ってなかったか?


そもそも、何をどうしたら成約なんだ??



『いえ、何もとれてないです。』


『は?何やってんの?


リストもタダじゃないんだけど?


もう1回全部かけ直せ!!』



本気で息をヒキトリタイデス。



そうして、僕のブラック企業入社初日が過ぎていった。



序章 1-3へ続く(近々更新・・・予定)



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


個人を特定されないよう人物名や多少の描写などは現実とは異なります。


が、出来る限り実際にあった内容を書いていこうと思ってます。


『こんな会社、本当にあんのかよww』


程度に笑って読んでもらえると幸いです。


書いてて自分でもありえないと思うのですが、本当にあるのです(;^_^A




当時、ニートをしていた僕が社会復帰を目指し就職した会社は、いわゆるコールセンターと呼ばれるところ。


やべ、すげードキドキする!!でも、これでまた社会人の一員、仕事、頑張ろう!!


緊張・興奮・不安、色々な感情を胸に抱き僕が入社した会社は・・・


ブラック企業だった。






『うちの会社、基本的に挨拶は押忍!!だから。お前らも早く慣れろよ。』



・・・



僕ともう一人の新人・川越君、そして部長の3人がいる会議室に沈黙がおとずれる。


きっと聞き間違えに違いない。おし、勇気を出して聞いてみよう。


『は、はい??お、押忍ですか??』


だってそうでしょう?時代が違くない??ないない、押忍はない。きっと冗談だ。


いや、でも、もしかしたら、なんか凄い深い理由があるのかもしれな・・・



『そう押忍。社長が好きなんだよね~。だめか??』


『い、いえ、早く慣れます。。。』



理由は社長が好きなだけですか・・・orz



それ以上に部長の眼力に負け「慣れます」なんて返事してる自分、どんだけ小動物だよ。


部長曰く、おはよう・お疲れ様・ありがとう御座います・すみませんetc...とにかく、全てが押忍だとのこと。


『じゃあ、とりあえず声出しからやるか。』


その後1時間、僕達2人は押忍だけを延々と繰り返した。


この時点ですでに心が折れそうになる自分。



でも、きっと変わってるのは挨拶だけだ。うん、そのくらい慣れればなんとかなる。


そんな最後の希望を胸に2時間の知識的な研修が終わり、午前終了。



『じゃあ、飯食べたら移動するから荷物忘れるなよ。』


『はい。どこに移動するんですか??』


『会社。ここ株主の会社で、会議とかの時だけ借りてるところだから。』



広いとは言えないが、綺麗なこのオフィスは好きだったが、まあ仕方ない。


実際の勤務場所のほうが綺麗かもしれないし。


そんな希望をあざ笑うかのように、移動した僕達の前には異質な空間が広がっていた。





仕切りも何もない(社長の席も角にあった)40畳くらい?の部屋、公民館の会議室にあるような机・椅子。


その机・椅子にこれでもかというくらい詰まって座っている従業員。


煙草の煙で白んでいる空気。


なによりも・・・




ユーロビートが大音量で流れている。



あれ?ここコールセンターというか本当に会社??


みんなが電話してる先に、お客さんいるんじゃないの??


音、ぜったい聞こえてるよね??(しかも対法人)


それに、その電話機、なんか家庭用に見えなくもないのだけど・・・ところどころ違う種類もあるし。。。


ヘッドホンみたいのつけて電話するもんなんじゃないの??


午前中、ずっと目を背けていた想像が現実味を帯びてきた。


そう、認めたくなかった現実が。

俺はまたやってしまったかもしれない。



1年前の記憶が蘇る。

ミシミシと折れそうになっている心の音が、現実に聞こえた気がした。


でも、そんな僕の心にとどめを刺す事態が、さらに起こるなんて・・・







    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


さて、見てくれてる方がいるかわかりませんが。


mixiとかはやってたのですが、こんな風に長編というか話風に書いたことなんぞないので、


序章だけでこんなに長くなってしまました。しかもまだ序章すら終わってないし。


わかってはいたけど、文章を書くってやっぱり難しいんだな。。。