熱を出して寝込んだ時に、よく思い出す。



………………………思い出す………?



本当に それが

『思い出す』のか『見ている』のか、

わからない。



意識が朦朧としているから、

それが『記憶』なのか『夢』なのか、

わからない。



けれども、いつも同じ光景。

物心ついた頃には、

お馴染みの光景だった。






真っ暗闇の中で、

『今すぐにでも切れてしまいそうな、

細い細い糸のような何か』を、



自分の両手の親指と人差し指で、

あるいは、中指も使って

摘まんでいる。





ピンと張った、

その、細い細い糸のような

何かの上を、



歩かなくてはいけないのか、

この糸で何かをしなければいけないのか。




『すぐにも 切れてしまいそうな程、

細い細い糸。 のような、何か』。



それを大事に し続ければ いいのか。



とにかく、

とても『不安定』だと感じるソレを、

とても『危うい』と感じるソレを、


たぶん自分の心は、



〝いつ切れるかと『不安』で

『心配』で、『怖い』〟のだ。



指で 何度も、

その〝糸〟の感触を、確かめる。

その度に、

「こんな細かったら危ない………ッ!!」と

脳が叫ぶ。



私の脳は、何を知っているのだろう。



いや、叫んだのは、

『脳』か、『心』か、『魂』か。



そもそも、

その〝糸〟に何の意味が在って、

〝切れたら どうなるか〟など、

わからないのに。




わかるのは、

『得体の知れないモノ』に対する

漠然とした『恐怖』。

それによる『不安』。

それだけ。





そんな事を考えていると、

今度は、真っ暗闇の中から、

〝顔〟が、近付いて来る。



視界いっぱいに顔が迫ってくる。

じわじわ近付いて来るだけで、

声も言葉も発しない。

何かされる訳でもない。

それが反って恐ろしい。





顔の造形や表情は、

ボヤケていて、よく見えない。



笑っているようにも見える。



でも、

愛する者を慈しむような

優しい それ ではない。



ボヤケていても、わかる。



ピエロの仮面にあるような、

貼り付いた笑顔。





その得体の知れない笑顔は、

『善意・好意』か『悪意』で言えば

『悪意』に近いのだろう。

『憎悪』『殺意』『歪んだ愛情』………。



あるいは、

〝私の顔を『興味本位』で

覗き込んだ者の『好奇の目』〟が

ボンヤリとした視界の暗闇では

笑顔に見えていたのかも

しれない。





〝知らない顔〟のようにも

〝知ってる顔〟のようにも、思える。






『自分を苦しめるモノの正体』?

( ウイルス? 悪魔? )



むしろ『救ってくれる何か』?

( 免疫とか? 天使? 精霊? )



どちらでもない『傍観者』?

( 苦痛も救済も

そのどちらも与えず、

命の終わりを待つ死神? )



『記憶の中の誰か』?

( 親? きょうだい? )



それとも『自分自身』?

( もう一人の自分? )




『正体がわからない』。


これだけで

『恐怖』の材料には充分だ。





あれは結局、何だったのだろう………?