今年最後だからブログでも書こうかな
今回は嘘のような本当の話
ある日とある男がケーキを買いに来てました
20代前半の彼は憧れの先輩女性の家にお呼ばれしたので、その手土産にとケーキを買いに来たのです
先輩の分と自分の分、季節が秋ということもありモンブランケーキを2つ注文し箱詰めを待っていると、隣でケーキを選んでいる小学生くらいの女の子が何やら困っているように見えた
しきりに財布の中身と値段を見比べているので欲しいケーキにわずかに所持金が足りないのかもしれない
その様子気付いた店員さんが女の子にいくら持ってるか尋ねた
もしかしたら少しの不足ならおまけしてくれるのかもしれない
急に店員さんに尋ねられた女の子は一瞬びくっとしながらも話し始めた
何でもお母さんの誕生日に妹とケーキを作っていたらしい
ところがちょっとしたトラブルでそれをダメにしてしまい、もう作る時間もないので自分のあり金全て持ってケーキを買いに来たのだとか
しかし急な事なので予約はしていない
たまたまホールケーキが2つ店頭に並んでいたけど置いてあるのは安い方でも2千円以上する
一方所持金は千円ちょっと
ホールケーキを買うには約千円ほど足りない
それで悩んでいたようだ
店員さんは女の子から家族の人数を聞き、切り分けられたケーキをすすめようとしたが所持金では一人分足りなくなる
それに女の子はホールケーキの方を欲していた
何とも言えない空気が店内に漂い始めた
するとそれを隣で聞いていた会計を終えた男の財布から1万円札がひらひらと溢れ落ちた
わざとらしいくらいの演技で女の子のもとまで飛ばすつもりが上手くいかずちょうど中間くらいに落ちてはいたけど
女の子はそれをチラッと見たが無反応
すると男はこれまたわざとらしく
「あれ?1万円札がない!どこかに落としたかな〜?」
と女の子のにも聞こえるようにはっきりと言った
当然女の子は困惑、男の前にいた店員も困惑
ただ女の子の前にいた店員は男がやろうとしている意図がわかったのだろう、優しく微笑んでいた
女の子は戸惑いながらも1万円札を拾い男に渡した
すると男はお礼を言ったあと謝礼にと千円を女の子に渡した
さらに困惑する女の子
するとそのやり取りを微笑ましく見ていた店員さんが女の子に説明をした
お金を拾った場合その1割を落とし主からお礼にと貰える事もあると
それで今回は向こうのお客様がお嬢さんにお礼をしたいのだと思いますよ
そうですよねと店員は男に目を向けると、その通り!だから受け取って欲しいと再度千円を渡された
そこで女の子は気付いた
自分の所持金が足りないからこの男性は自分にお金をくれたのだと
何故こんな周りくどい事をしたのかは理解出来ないけど、この男性が自分を助けてくれた事はなんとなく理解した
ありがとうございます!と頭をさげ女の子は千円を受け取った
さっきまでの重い空気とは違い微笑ましいあたたかい空気が店内に流れていた
その後、女の子は無事ホールケーキを買えお母さんの誕生日を祝えたようだ
え!?何で無事祝えたのを知っているのかって?
ここからが奇跡のような本当のお話
あれから数年が経過し女の子は高校生になっていた
そしてあのケーキ屋さんでアルバイトをしていた
理由はいくつかあり、まず単純にお金が欲しい
そしてお菓子作りが好き
そしてもうひとつ
あの時助けてくれたお兄さんにもう一度きちんとお礼が言いたい
会えるかどうかわからいけど、もしまた会えたらお礼が言いたい…というのもあるけど、あの日彼女は恋をしてしまった
厳密に言えばあの日ではないけど、日に日に彼の事が好きになっていったようだ
想いや想像・妄想が膨らみ彼女の中での彼はものすごくかっこよく王子様のような素敵な男性へと昇華していた
一方男の方はというと…
憧れの先輩といい関係になるも実は彼氏がいたらしく修羅場に
しかもその彼氏もまた同じ職場という
それで結局男はその会社を辞める事に
しばらく実家に引きこもり、現在はバイトをしながら細々と暮らしていた
そんな彼は別に甘いものが好きなわけでもなく(別に嫌いでもない)、しかも今はそんな状態だからケーキ屋とは縁なんてあるはずもなく、彼女が待ち人と会えるという奇跡は絶望的に思えた
さらに月日が経過し彼女は大学生になった
実家から通える比較的近場の大学に進学しケーキ屋のバイトも継続していた
そしてその日は突然やってきた
入って来た男は無造作に伸ばしたであろう長い髪を後ろでひとつに結って無精髭を生やし上下スウェットに足元はサンダル
外見は30台後半いや40代にすら見える
はっきり言ってみすぼらしく汚らしいオッサンだった
しかし彼女はすぐにわかった
彼はあの恩人だと
私の想い人だと
すぐにでも話しかけお礼を言いたかったが急な事で心の準備が出来ていなかったし、それに…彼はあまりにも変わり果てていた
この10年近くでいったい何があったのだろうか
いや10年もあれば色々変わる事もあるのかもしれない
そんな負のオーラを纏っていた彼に話しかける事が出来ないでいた
とりあえず自分が対応しよう
そう思い彼女はカウンターを隔て彼の前にたった
彼はしばらく悩みショートケーキとチョコレートケーキの2つを注文した
一瞬目が合ったがやっぱり彼は私の事を覚えていなかった
少し残念な気持ちとさすがに小学生と大学生では違い過ぎるので気付くわけがないと諦めている部分もあった
会計をする為に彼が財布を出した
ああ…忘れもしないあの時と同じ財布だ
ヴィトンのタイガ
昔はブランドなんてわからなかったが今はそれがわかる
間違いなくこの人だ
それに声も同じ
自信が確信に変わり彼女はお金を受け取ると勇気を出して話しかけた
あの時は本当にありがとうございますと
今度は男の方がキョトンとした
以前とは真逆なその様子に女は自然と笑っていた
昔まだ小学生だった頃にこの店で男に助けられた事を話した
話を聞いている内に男も思い出したようだ
男はあの時と同じ優しい笑みを浮かべながら
そうですかわざわざご丁寧にありがとうございます
というと一瞬寂しい顔をした
すると女はきちんとお礼をしたいので今度ご飯でも一緒にどうですか?と男を誘った
これにはさすがに男も驚いたようだ
そんな昔の事を、それも当時の男からすれば些細な事を、それを10年近く経過した今そこまでお礼をしてもらうというのも
しかも今の男はおっさんだ
一歩間違えば浮浪者に見えなくもない
そんな小汚く冴えないおっさんを恋する乙女のような目で見てきても…
だから男は困惑していた
男はさすがにそこまではと断ろうとしたが、いや"最後"の思い出にこれはこれでいいかもしれないなと女の誘いを受ける事にした
男の人生は波乱万丈だった
勉強は嫌いだが賢かった男は高校を卒業すると同時に就職した
そして頭角を現し始めた頃に先程書いた修羅場で退職
その後しばらく実家に引きこもるも親に嫌味を言われ仕方なくバイトを始めるとボロアパートで一人暮らしを始める
贅沢をせず細々と暮していたが、SNSで知り合った女性と恋に落ちるとそこからまた彼の人生は急降下を始める
彼女が浮気をしていたのだ
しかも途中からそっちが本命になり自分の事は財布としか見ていないようだった
ただでさえ金がないのに女の為に借金もするようになった
そして浮気に気付いた時には身も心もボロボロになっていた
人生に疲れた彼は自分の人生に終止符を打とうとしていた
翌日が彼の誕生日
日付が変わると同時に自分で最後のお祝いをし、そして人生に幕を降ろそうとしていた
そんな中ケーキを買いに来てみればこんな事になってしまった
もしかしたら死ぬ前にこの女を抱けるかもしれない
一緒に死ぬのも悪くないかもしれないな
そんな事を考え男は彼女の誘いを受けたのだった
彼女のバイトが終わる頃にまた店の前で会う事にした
それまでの間手持ち無沙汰になった男は部屋の整理をした
元々死ぬつもりだったので部屋の中は散らかり放題だ
しかしもし部屋に彼女を連れ込めた場合さすがにこれではダメだ
そう思い片付け始めた
この時から少しずつ生への執着が現れ始めていたのかもしれない
髭剃るか…
髪は…床屋に行く金がないな
風呂は…ガスが止められているんだった
電気と水道はかろうじて通っている
とりあえず顔と体を拭くか
1ヶ月以上磨いてなかった歯も念入りに磨いた
服は…スウェット以前にさすがに臭ってきてるので着替えた
よし、こんなもんかな
まだ時間があったので男はこれまでの人生を振り返った
が、すでに先程の彼女の事が頭の大部分を占めていたのですぐに終了した
時間になり再びケーキ屋へ向かうとすでに彼女は待っていた
少し恥ずかしそうに微笑んでいた
か、かわいいな
何か食べたいものあります?お酒あった方がいいですよね?
早口で聞いてくる彼女をかわいいと思いながらも、冷静な、いや黒い感情が芽生え始めていた
めちゃくちゃに犯したいと
どうせ女なんて裏切るのだから
どうせ俺はこの後死ぬんだから何をしても平気だ
何ならこの道端で犯したっていい
周りの人々に見せつけてやるか
という黒い考えがチラつくも根が小心者なのでそんな事出来るわけもなく…
色々出来ない妄想をしながら彼女の言葉に空返事で答えていたら気付いた頃には知らない店の前に来ていた
普通にご飯とお酒を奢ってもらった
それも10歳以上も下の子に
はぁ…俺はいったい何をやっているのやら
全く酔えず逆に虚しさが増しただけだった
とりあえず彼女を送って帰ろう
・・・・・
て、タクシー代ないー!!!
その様子を見て察したのか、フッと笑顔を浮かべた彼女は
今日は全部私の奢りです
タクシー代も全部出しますよ
と、言ってきた
その言葉を聞いた彼の目からは涙が溢れていた
情けない…本当に情けない
そう思えば思うほど涙が止まらなかった
今でこそ落ちぶれてしまったが学生時代も会社に勤務していた頃も彼は出来る人間だった
溢れ出た涙はそのプライドがわずかに残っていた為か、はたまた酒が流させたのか…
それを見て慌てた彼女は彼の手を引き、とりあえず近くのベンチまで誘導した
ベンチに座ると男は誰に言われるでもなくポツポツ彼女に語り始めた
それこそ産まれて物心が付いたときから今日までの彼の人生全て
その全てを包み隠さずに話した
その語りは長時間に及んだ
それを一言も発せずに黙って聞き終えた彼女は優しく男を抱きしめた
そして彼女もまた泣いていた
しばらく男を優しく抱擁していた彼女はおもむろに男を離すと意を決したかのような表情で真っ直ぐ男を見つめ話し出した
これからは私があなたを支えます
絶対に裏切りません
一生あなのそばにいます
だから私と結婚してくれませんか?
今日1日中驚きの連続だった男もその言葉には今日イチで驚いた
この女はいったい何を言ってるのだと
また俺を騙…いやこの真っ直ぐな目は違うか
嘘を言ってる人間の目ではない
とはいえたった2回しか会ってない、しかもこんな浮浪者みたいな貧乏で小汚い自分と普通結婚したいと思うか?
それがいくら恩人も言えども
それも命の恩人とかではなく、たかだか千円の恩人
その程度
なので断ろうとしたら…
「断るなら私も今日死にます!」
と言ってきやがった
長く話し込んだせいですっかり日付が変わっていた
はぁ!?この女何を言ってるんだ?
頭おかしいんじゃないか?
そこまで酔っ払ってるようにも見えないし薬中…ってわけでもなさそうだ
恋に恋をして盲目になってるのかな
「お前が死ぬのはダメだ」
「なら結婚してください」
「はぁ!?だから意味わかんねーし」
「意味がわからなくても結構です
結婚してくれないなら私も死にます」
「・・・・・何で?何でそこまで俺の事を」
「ずっと好きだったんです!あの日からずっと…ずっと好きだったんです」
「たかだか千円あげただけだろ
俺はそこまで君が思ってるほどいい男じゃない
さっき言った通り俺は君を犯す事も考えていたんだぞ」
「でもしなかった」
「え!?」
「でもしなかった!あなたは自分が思っているより常識的で立派な人です
今だから、大人になったからわかります
普通はあかの他人にお金をあげませんよ
みんな見て見ぬふりをします
それをあなたはためらわずにあげた
しかも気兼ねなく受け取れるように理由までつけて
あなたは優しい、そして頭も良い
そして… かっこいい… 」
「でも…」
「でもも何もありません!私がかっこいいと言ったらかっこいいんです」
「は、はい」
「もし今の自分が格好悪いと思うのならば、これから格好良くなればいいんです
私も側で精一杯支えますから」
「本当にこんな俺でいいの?」
「はい!」
「はぁ…わかった…
でも今はこんな…だから、とりあえず結婚は保留で付き合うところから始めよう」
「そ…そうですか…」
「いや結婚したいよ、こんないい女他にいないと思うからぜひとも結婚したいよ
でも今のダサいままの俺じゃダメなんだ
もっとマシになったら俺の方から正式にプロポーズするから、それでいい?」
「もう死ぬなんて言いませんよね」
「え!?うん…」
「絶対言いませんよね!」
「うん、言わない、約束する!」
「ならいいです、待ちます」
「なんか、思ったより頑固というか強情なんだな」
「はい、頑固で強情です!」
沈んだり驚いたり困惑したり泣いたり怒ったりと忙しい2人だったが最後は2人とも笑っていた
「そして…お誕生日おめでとうございます!」
はい、長々と書いてきましたが、実はこの女子の方…わたくしの従兄の娘なんです 笑
この話を聞いたときびっくりしたね
ドラマ作れるやん!と
あ、多少脚色したり誇張した部分もありますが、だいたいこんな感じです
あれから約3年
本当はもう少し早く結婚する予定だったらしいのだけど、コロナと重なっちゃったからね
で、今は多少なりとも落ち着いてきてるので、この度2人はめでたく結婚する運びとなったわけです
それにお腹に子供もいるみたいだし
現在彼は引越し業者に務めて頑張っている模様
彼女、俺にとっては従姪か、の方も大学を卒業後に企業に就職し働いているけど春から産休をとるらしい
俺は従姪とは2人でデートした事もあるくらいそれなりに親しい関係だっただけに、めでたいと同時にちょっぴり寂しくもある
これが自分の娘となれば…
大丈夫かな俺、娘は嫁にやらん!とか言いそうだわ
ちなみに…
あの日彼が買った2つのケーキ
女の子に誘わた興奮と動揺でケーキを冷蔵庫にも入れずその辺に数日間放置しダメにしたらしい 笑
それを聞いた彼女はしょうがないなぁと後日同じケーキを買って彼の家に持って行き仲良く2人で食べましたとさ
おしまい
それではみなさんよいお年を
