人間はやはり慣れるもので、研修担当の遅刻には慣れてきた。


といっても、これまでの私は何も知らない世界の勉強を自力でしていて、研修担当がろくに教えてくれない、どうして良いか分からない環境で途方に暮れていた。


しかしながら今の私は、スクールで学んだ下地がある分野を学習している。

下地がある分、多少理解が出来るし、学習の仕方もどう進めていけば良いのか分かりやすかった。

それに、前学習分野は中級の資格対策本しか買っておらず、その分野を広く攫うような入門編と言えるような参考書は手元になかった。


今は多少なり分かるところを学習しているために、自分にはやるべき作業がある。

ひたすらパソコンへの入力作業、問題を解くために記述したり本を確認したりする作業があり、研修担当が遅刻しようが私にはやることがある。

ろくに教えてくれない研修担当の遅刻などどうでも良い、いてもいなくても変わらない、と言っても過言ではない。


本日の研修も、一言目には


「1章の解説飛ばしていい?」


だった。

未経験の素人相手に解説を飛ばすとは何事か。

まだスクールでの下地がある私だけなら1章を飛ばし、気になるなら本を読めと言いたくなる気持ちは分かるが、同期は受講経験のない完全な未経験。

解説するのがお前の仕事だろ。そう思わざるを得ない。


我々新人は、研修担当が不在の間、指定の参考書を順次読み進めている。


「とりあえずざっと参考書のコードを書いてくれればそれから解説する」


との説明があったはずなのだが、我々はひたすらコードを書き、参考書の練習問題を解き進めている状態で解説がない。


結局本日最初の研修として2章の解説が始まった。

相変わらず向こうのスケジュールに合わせている。

開始時間は遅れるのに解散時間は厳守である。

研修時間はおそらく30分ほどだった。


「後で戻ってきたら4章まで解説するね」


そう言って戻ってきた研修担当は


「分からないことある?」


と聞くだけ聞き、4章までの解説など全くしなかった。

我々の進捗が研修担当にとって想像よりも良かったようで驚いていた。


この研修期間、同期はしっかりやっているように見受けられるが、私はモチベーションが腹這いのため参考書をじっくり読んではいないし理解をしていない。


練習問題を見て、その章のページをぺらぺらめくり、似た記述を書き込み、試し、直し、分からなければ答えを見てあーーーーなるほど……?となるようなふわっとした理解であった。


そのため、専門用語は全く分からないが、コードの書き方だけはふんわりと見覚えがある、といったような感じで進めている。


研修担当からの、分からないところ、という質問において、私はほぼ全てが分かっていないと答えたい。

しかし、具体的に質問を投げなければまた腹の立つことをガミガミと言われるだろう。

解説を怠るくせに。


とはいえ、私は質問をした。

練習問題を解いているときに疑問を感じた点について2点。

1点は後で解説すると言われて忘れ去られた。

2点目に関しては、なかなか私の質問の意図を読み取って貰えなかった。

私はずっと同じことを話していた。

質問の仕方はずっと考えていたために、結構具体的に


「こういう問題で、この点について。この部分はこれがこうなので、私はこう記述したが、ダメだったのでこう記述をしたが、この記述について、この言葉はこれを使っているという解釈で良いのか?」


というようなことを3回は喋ったと思う。

そのうち一言印象に残っているのは、


「まず何がしたいのか教えて?」


最初にこういう問題だって言っただろ。

参考書何章の練習問題○の、こう言う内容の問題について、ってまず前提で話しただろ。

話を聞け。

説明するときも、私は画面共有をしていて、記述した部分に、問題の条件を記載していた。

ちゃんと相槌を打たせるための話の区切りも意識した。しっかりと質問の意図を読み取らせるために。

苦手分野であるし、質問の仕方が悪いかもしれないと意識していたから。


しかし、私が何度も同じ発言をして漸く向こうから聞きたい答えが導き出せたところを見ると、向こうの話を聞く力が微妙である可能性がある。

参考書の、と言っても本を開く様子がなかったこともその一因である。話を聞く姿勢もそうだが研修への取り組み姿勢が言わずもがな悪い。

しかし、担当の技術力故に、私の質問には複数の答えがあり、それを絞るための所謂ロード時間のようなものがあったのかもしれないという考えもある。

私の肌感では前者である気がしているが。


結局、研修の合計時間など1時間程度だったと思う。

この調子では5日間の研修時間は5時間になる。

つい先日、24日は丸一日研修できると宣言していたはずなんですけどね。

新人の自己学習で成り立つのが研修というものなのだろうか。

オンラインスクールよりも劣悪な学習環境である。


私はオンラインスクールでの経験から、就活する上で、個別指導があることを重視し、面接で研修内容に関しては全社に確認を取っていた。

個別とは言っても同期と共に、などは気にしておらず、とにかく、会社のオンライン研修カリキュラム(提携オンラインスクール)を受ける、などの内容を避けていた。


受講したオンラインスクールのカリキュラムは壊滅的に分かりにくかった。わざと分かりにくく記載し、質問能力を養うため、とかいう最もらしいことを言われたが、初学者の多くはどこかで詰まって誰かに質問を投げるのに分かりにくく書いてなんの意味があるのか疑問である。分かりやすく書けなかっただけではないのか、と思ってしまった。


学習の中で分からないところがあれば指定時間内に質問申請をして、メンターの空きと連絡を待ち、それから漸く人間に質問出来る。(質問AIが導入されたのは私が卒業の頃)

個別であれば、疑問を感じた時にすぐに質問が出来るのは時間的にかなりのメリットだと思うし、現場の人間だからこそ、どこを重点的に覚えておくべきか、ポイントを押さえられる点も良いと考えていた。


しかしこの研修担当の前では時間的メリットは向こうにしかない。

私たちはひたすら自力でやるしかなく、研修担当は添え物だ。

オンラインスクールと変わらないどころか、質問対応時間を考えればオンラインスクールより劣る。


研修期間に金が発生する企業、という点を重視して入社したのは本当に正解だった……。

金が払われなければやってられない。



ようやく土曜が来た。

木曜までは地獄のような心境であったものの、金曜はストレスが薄味だったために土曜は晴れやかに過ごせそうだ。


休日も勉強しろと言われているが知らん。私の人生だ、休ませろ。の気持ちでのんびりする。