目無し星人の!! 私的と指摘される詩的なブログ
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【小説】(96)GRAND CIRCULATE

「ウゥオオオォ!!」

「ッ!」

 廃墟の様相を呈する村で、獣の唸りにも似た、ウォディの叫び声が木霊する!繰り出される大剣の一撃一撃が、その速さと力強さを増し、ヴィノーへと襲い掛かる!

ブォン!

 袈裟切りが空を裂いた所で、ヴィノーは一気に間を詰めようと踏み込む!しかし…

「甘ぇんだよ!」

ズォン!

 ウォディは、少しの硬直も無く、逆袈裟の斬撃で切り返してきた!ギリギリで踏み留まったヴィノーの鼻先を、刃の端が掠める…!
 先刻弾いた攻撃とは、“切れ”の違いが明確だ。

(…隙が無い…!あの大剣で、直ぐ様逆方向に切りつけてくるなんて――)

 何という怪力。大爪持ちし獣の猛攻。受け手は、回避に専念する事を余儀無くされていた。
 怒涛の攻撃の中、ウォディが囃す。

「どうした!?ちょっと本気を出したら、もうギブアップかよ!」

 怒号に気圧されたのか、ヴィノーは背を向けて走り出す。

「…逃がさねーっつったろ!」

 少し走り、大剣が振り被られた所で、ヴィノーは振り返る。

「さあ、来い!」

「!?」

 気が付けば、ヴィノーの両脇に聳え立つ壁。彼の狙いは、狭い路地へ誘い込み、大剣の軌道を封じつつ、反撃する事に有ったのだ。

「なぁめんなっ!!」

 踏み込みの途中で、ターンするウォディ。やがて、回転は高速化していく…!

「まさか!?」

 身に危険を感じたヴィノーは、高く跳躍し、壁の上方で体を突っ張り、身を留める。

ズガン!!
ガァン!ガァァン!

 程なくして、一対の壁に刻まれた、剣の深い爪痕。
 ウォディの後方へと跳び降りたヴィノーは、その有り様を目の当たりにして、愕然とする。

「遠心力を上乗せしたのか。石材の壁に、こんな……」

「ふん。残念だったな。」

 そう言いながら、ウォディは、くるりと振り返り、言葉を続けた。

「…“スクラッチ・オブ・ベヘモス”なんて呼ばれてる技だ。戦場で、敵を鎧ごと輪切りにしてやった事もあるぜ。」

 その発言を受け、ヴィノーは、目の前で構え直された大剣と、破壊された壁を交互に見る。

 首筋を、冷や汗が伝う。

 もしも、あの一撃を喰らっていたならば――

(『上手く誘い込んだ』と、思ったけどな…)

 実戦に於いた、絶対的、経験値の差なのか。“力”を見せ付ける相手に向かい合い、ヴィノーは、焦燥と戦慄が、混ざり合った感を覚えていた。

【小説】(95)GRAND CIRCULATE

ドッゴォオオオン!

 派手に宙を舞い、路地裏から放り出される体…!それは、ウォディの一振りを食らった、ヴィノーだった。
 素早く駆け寄ったパリルが、様子を窺う。

「ヴィノー、大丈夫かい!?」

 地に伏せていたヴィノーは、直ぐ様、上体を起こして見せた。ウォディから、大打撃を受けたと思われる事実からすれば、意外な反応だ。
 パリルは胸を撫で下ろす。

「生きてたか。…良かった。」

 彼女の言葉に、ヴィノーは応える。

「鞘を付けたままの打ち込みだったから、なんとかね。」

 ウォディは、大剣を肩に掛けたまま、ゆっくりと姿を現す。そして、語り掛けて来た。

「咄嗟に盾で防いだ上に、飛び退いて衝撃を削ぐとはな。抜き身の一撃でも、致命傷を免れる受け方だった。…やるじゃねーか。」

 ヴィノーが、パリルに囁く。

「投げナイフの牽制は効かないし、背を向けるには、危険な相手だ。…僕が引きつけておくから、パリルは早く、ここを離れて。」

「でも…!」

 狼狽えるパリル。
 その遣り取りが聞こえたのか、ウォディが会話に割り込む。

「さあて、坊さん達も、ここらを捜索中だ。逃げ切れるもんかな?」

 “坊さん”=“正方術教会員”。先程、目にしただけでも、かなりの人数が居た。

「しかも、俺が逃がさないからな!」

 言い終わるのが早いか、ウォディは、またも俊敏な踏み込みを見せた!

ガァン!!

 …瞬きの後に、体勢を崩していたのは、駆け寄りながら大剣を振ったウォディの方だった!

「弾き返しただと!?」

 驚愕の声を出すウォディ。その目の前には、盾を構えたヴィノーの姿が有った。

(打ち始めを狙われたとは言え…一足跳びで、大剣の間合いを殺されたか!踏み込みが深いな、コイツ。…何より、良い反応しやがる。)

 自らの一撃を退けて見せた、この青年の動きから、その実力を推し量るウォディ。その表情には、笑みが見て取れる。

「クックッ…。ヤバいな。マジでヤバい。」

 ウォディが落とした視線の先に、鞘を被せたままの大剣が有る。しかし、盾と激突した衝撃に因って、鞘は裂け、亀裂の奥には、危険な輝きを宿していた…!
 肩を震わせて、込み上げる笑い声を漏らす彼の様子は妖しく…何やら、近寄り難い雰囲気を纏っている。

「早く、長老の元へ!」

「う…うん。」

 振り返らないまま叫んだ、ヴィノーの声に促され、パリルは、その場を後にした。

【小説】(94)GRAND CIRCULATE

「!?」

 気配を感じて、振り返るヴィノー。そこには、大剣を振りかぶる、ウォディが立っていた。

ブォン…
ドガアァァン!!

 ヴィノーは、パリルを突き飛ばした後に、自らも跳び退り、振り下ろされた剣を、なんとか回避した!
 近くの木箱が叩き割られ、轟音と共に、破片が撒き散らされる…!

「へぇ…!勘の良い奴だな。」

 大剣を肩に掛けて、ウォディは感嘆の声を上げた。その刃は、鞘に納めたままだが、直撃を受ければ大怪我は免れないだろう…。

「教会の人間か…!?」

 ヴィノーが問い掛けた。
 ウォディは宙を仰ぎ、何やら思索を巡らせていたが、やがて視線を戻し、答える。

「まあ、今は、そんなトコかな。坊さんに見えるようなら、そう思ってくれればいいや。」

 含みのある返答に、ヴィノーは困惑している。しかし、次の瞬間…!

ヒュヒュン…
タン!
タタン!

 パリルが、ウォディに向けて、投げナイフを放った!
 しかし、大剣で容易く受け止められてしまい、鞘に刺さっただけだった…。
 ウォディが話し掛ける。

「おいおい、本気の反撃は、勘弁してくれよ。さっきのは挨拶代わりで、当てる気は無かったんだからよ。」

 掲げた大剣を下ろし、切っ先を地面に付けて、弁解するウォディ。
 しかし、先程、木箱を粉砕した一撃のインパクトが大きい。
 ヴィノーが言った。

「不意打ちしといて、『信じろ』って言うのか?」

「そう言うなって。こっちも仕事なワケだからな。…で、どうよ?大人しくしょっぴかれるなら、痛い目見ずに済ませてやるけどな。」

 ウォディは、飄々と語るものの、2人が警戒態勢を解く様子は無い。パリルに至っては、刺す様な目つきで睨み付け、今にも第2撃を叩き込んで来そうだ。
 ウォディは、肩を竦めて言葉を続ける。

「話聞けっての。…それとも、ホントに“悪魔憑き”……」

ヒュン…

 言葉を遮る様に、パリルが再びナイフを投じた!
 アイコンタクトを図り、2人はその場からの逃走を試みる!

「逃がさないぜ?」

 ヴィノーは、間近に聞こえたウォディの声に、驚愕する!
 気が付けば、距離を詰められていたのだ!

(何時の間に!?)

 ウォディの攻撃から、身を躱そうとしたが、間に合わずにヴィノーは剣撃を、その身に受ける!

「ヴィノー!!」

 パリルの叫びが木霊した…!!
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