外来リハビリにも慣れてきた。
左手の状態もまずまずだ。
外来担当の作業療法士さんは次のステップに移ろうとしていた。
それはドライブシュミレータだ。

自分は脳梗塞をやった影響で現在クルマの運転を止められている。
このクルマの運転を止められているという意味は、医師が患者に対してそう診断を出しているだけだ。
だけと言っても、これが大きな意味を持つ。
免許証に何か記されていることもなければ、警察署に届出をしている訳でもない。
ただ、今の状況で仮に運転して警察のお世話になることがあれば、事情聴取等で診断が出ている事がいずれ知られるだろう。
こうなった時が問題になり、家族や病院に迷惑をかけ、保険が支払われなかったり、加入にも影響があるという。
そんな事になれば信用は失われ、多くを失う事になるだろう。
自分だけの問題ではなくなるので、ここはキッチリ運転は控えている。

でも、果たして自分はクルマの運転ができるのだろうか。

こんな不安がとても大きく、自信もない。
それは視野の問題だ。
視野検査で出た結果がそのままだが、結果以上に見えにくさを感じている。
とても言葉では表現出来ない見え方に、これで運転していいのか、と疑問を抱くほどだ。
でも、この地域ではクルマなしの生活はとても考えられない。
なんとか運転を復活させなければならない。

入院中からリハビリ室に入ると、気になっていたクルマのステアリングが設置してある小部屋がある。
ゲームで使用するステアリングだ。
ステアリングがあると言う事はペダルもあるだろう。
外来担当の作業療法士さんから聞いたのは、自分のような患者に実際の運転の前に練習や訓練としてやっていくそうだ。
自分は20代の頃、クルマのレースゲームが好きで、結構やりこんだ時期があった。
それこそ、休日前は夜から朝方まで取り憑かれたようにやっていた時もあった。
別売りのステアリングこそ買わなかったが、欲しいと思っていた。
作業療法士さん曰く、グランツーリスモがベースのシュミレータなんですよ、と。
まさに自分はこのゲームをやりこんでいた。
ゲームの勝手は分かっている。
早くやってみたい。
自分はリハビリの一環だという事を忘れてしまいそうだった。
この近辺でも、こういったドライブシュミレータを設置している病院はないそうだ。
外来リハビリをこの病院に決めた理由は、ここにもあった事を思い出した。
一体どんなものなんだろう。
ドアの向こうに見え隠れするステアリングにワクワクするリハビリであった。