フランスのパワー・エレクトロニクス・プロジェクトによるアルバムです。プロジェクト名はドイツ語で嫌悪や憎しみを意味する単語で、一般的にはアプショイと発音されます。フランスのユニットですけれどもドイツ語です。謎の多いプロジェクトではあります。

 本作品「クリード」はドイツのテスコ・オーガニゼーションから発表されました。テスコはイギリスのスーパーマーケットの名前ですが、これをスロッビング・グリッスルが曲名に使ったことがあり、レーベル名はTGへのリスペクトを込めて付けられました。

 ノイズ、インダストリアル系のサウンドを送り続けるテスコからの作品ですから、アプショイも当然その系統に属します。アプショイがテスコからアルバムを発表するのはこれが初めてで、これ以前は英国のアンレスト・プロダクションから作品を発表していました。

 アンレストももちろんパワー・エレクトロニクス、インダストリアル系のレーベルです。アプショイはアンレストから2016年と2017年にカセットを発表した後、下って2022年に10インチのシングルを発表しています。ノイズ系のアーティストにしては寡作です。

 私がちょっと調べただけではアーティストの素顔はまるで分かりませんでした。ソロなのかグループなのか、どのような人物なのか、一切分かりません。出自もフランスだと聞いていますが、ドイツ説、スウェーデン説もあります。大変潔いプロジェクトです。

 アルバムは6面のデジパック仕様で、ジャケットにはタイトルとプロジェクト名、そして檄文が書かれています。パックを開くと、真ん中にCDが収められています。これを取り去ると、パリの紋章とその標語「たゆたえども沈まず」が大きく描かれています。

 折り返しには一面にピストルの写真が掲載され、そこにはローマ法の正義の理念である「各人に各人のものを」の文字、そして「2022年に文化浄化の地で録音された」との記載があります。内側に記載された英語による歌詞も一切の妥協はありません。

 隅から隅まで実に潔いプロジェクトです。ポップな側面は一切排除されています。そもそもアルバム・タイトルが「クリード」、教義や信条を意味するシリアスな言葉です。各楽曲も「抵抗」、「自発的隷従」、「寛容は恐れなり」、「人間らしく立ち上がれ!」などです。

 英語の歌詞は基本的にデス・ボイスでシャウトされますが、意外にしっかり聴きとれます。そこもまた潔い。サウンドはパワー・エレクトロニクス、インダストリアル系に分類されるもので、これまた潔いハーシュなノイズ系のエレクトロニクス・サウンドの洪水です。

 アプショイは高音ノイズではなく、ブリブリ言わせる低音ノイズが中心となっているので、脳髄よりも腹の底に響きます。こちらの方が政治的な主張にも向いていると思います。40分程度に凝縮されたインダストリアル・ノイズはとにかく潔くてすっきりします。

 その政治的な主張も含め、真面目なTGといった風情が漂う作品になっており、私は好きです。どんなアーティストなのかまるで不明ですけれども、ここで表現されている真摯な世界は尊いものであると思います。♪立ち上がれ♪という直截なメッセージがまぶしいです。

Creed / Abscheu (2023 Tesco)



Tracks:
01. Resistance
02. The Word Spoke To Us
03. Tolerance Is Fear
04. National Idea
05. Voluntary Servitude
06. Rivers Of Blood
07. Stand Up Like Men!

Personnel:
Abscheu