ポピュラー音楽の世界にエレクトロニクスが進出してきた際、生ドラムの命運は尽きたかのように思った人もいることでしょう。しかし、意外なことに生ドラムはエレクトロニクスととても相性がよいです。アナログの極みはデジタルと仲良く共存するのでした。

 本作品はナカコー×食品まつり×沼澤尚という「三者三様、独自の音楽観に定評あるクリエーターによる膨大なセッション音源をナカコーがトリートメント」した作品「ヒューマニティー」です。沼澤のドラムとナカコー&食品まつりのエレクトロニクスとの共演です。

 収録されている音源は、この三人がスタジオ入りして行った即興的なライヴ・セッションをナカコーが抽出、編集、ミックスしたものです。各楽曲にタイトルはついておらず、シンプルに番号が振られているのみです。何ともあっけらかんとサウンドが提示されていきます。

 ナカコーことコージ・ナカムラは地元青森発祥のバンド「スーパーカー」での活動で知られています。2005年に十年続いたスーパーカーを解散した後、ソロ活動をスタートしており、CMや劇伴などでも幅広い活躍をしています。アンビエントの牽引者でもあります。

 食品まつり、またの名をフードマンは名古屋出身の電子音楽家で、2012年にニューヨークのレーベルからデビュー作を発表後、米国、英国や日本など各国のさまざまなレーベルから作品を発表しています。国内外の批評家からも高い評価を得ているアーティストです。

 沼澤尚はドラマーです。ロサンゼルスの音楽学校に学び、卒業と同時に講師に迎えられるという優等生です。在学中はTOTOのポーカロ三兄弟の父親にして多くのドラマーを育てたジョー・ポーカロやザッパ・バンドでお馴染みラルフ・ハンフリーに師事しています。

 沼澤は、チャカ・カーンやボビー・ウーマックなどのビッグネームのツアーにも数多く参加している人気ドラマーで、2000年に帰国してからも数多くのアーティストのレコーディングやツアーに参加しています。私のCDコレクションにもいろいろなところに顔を出しています。

 確かに三者三様です。この三人がどういう経緯でセッションをしたのかは不明ですけれども、この録音の目的は「素材録音のため」とされていますから、もともとはアルバム制作を意図したものではなかったのでしょう。面白そうだからまとめておこう、といった感じでしょうか。

 ナカコーと食品まつりはサンプラーとエレクトロニクスを担当、沼澤はもちろんドラム。この三人がスタジオで即興ライヴを行ったわけです。「素材録音のため」ですから、いろんなことをやってみたのでしょう。その自由さがとにかくいいです。

 「アンビエント、エレクトロポップ、ダンスミュージック、ロックが融合されたインストゥルメンタル作品」と紹介されており、ジャンルで語るとまあそうなのでしょう。ただ、曲としてのまとまりよりも、一瞬一瞬が楽しい音の塊なのでそういう語り口が似合いません。

 確かに素晴らしい素材が詰めこまれています。どの瞬間を切り取っても絵になります。知らないうちにCMを始めとする映像作品に使われていそうです。環境ないしは空気をつくり上げるという意味ではアンビエントの言葉にふさわしい。面白い作品です。

Humanity / Koji Nakamura + Foodman + Takashi Numazawa (2022 P-Vine)



Tracks:
01. no.1
02. no.2
03. no.3
04. no.4
05. no.5
06. no.6
07. no.7

Personnel:
Koji Nakamura : sampler, electronics
食品まつり a.k.a. foodman : sampler, electronics
沼澤尚 : drums