ジャケットに注目です。誰もが「クリムゾン・キングの宮殿」を思い浮かべます。法と秩序にがんじがらめになって苦悩する現代人を描いた気が滅入るようなジャケットです。管理社会の抑圧を描いた歌詞の曲もあって、その限りではジャケットがぴったりきます。

 しかし、フィル・マンザネラほどそういうムードの似合わない人もいません。根が明るいんでしょうね。本作のボーカルで学友のサイモン・エインリーと、作詞のベーシスト、ビル・マコーミックが、後に「801はメインストリームすぎる」と別グループを結成するのもわかります。
 
 さて、「801ライブ」の好評に気を良くしたフィルは、ライブだけではもったいないとばかりに、よりパーマネントなプロジェクトを企図し、まずはスタジオ・アルバムの制作にとりかかります。その結果としてできたアルバムがこの「リッスン・ナウ」です。

 ライブのラインナップを基本に、10ccの片割れゴッドリー&クレームを始め、より豪華な大所帯となっています。その分、オリジナル・メンバーの貢献は小さくなり、特にイーノの役割は大きく減少しています。曲は全曲をマンザネラ、歌詞はビルとイアンのマコーミック兄弟です。

 大所帯になればなるほどソロ色が強まるということで、クレジットは単なる801ではなくて、フィル・マンザネラの個人名も併記されることになりました。プロジェクトをもてあまし気味なのかなとも思いますが、801にこだわるあたり、マンザネラは本当に人が好いですね。

 サウンドは、ソロ・デビュー作に比べると、明るさが脳天気なまでには突き抜けていませんし、「801ライブ」と比べるとバンド感と統一感が欠けています。しかし、そこが新しい個性となっているのだと思います。それを象徴するのがゴッドリー&クレームの新楽器ギズモかも。

 アルバムはライト・ファンクな表題曲で始まり、さわやかなポップス「フライト19」、甘い甘いギター・インスト「アイランド」、そして節回しがカッコいい「ロー・アンド・オーダー」でA面が終わります。私はここの流れが好きでした。明るい曇り空を感じさせるサウンドです。

 これに比べるとB面はやや分が悪い気がします。一曲一曲はなかなかの力作なのですが、どこか腑に落ちないものが残ります。最初の曲は「クウィー」、スペイン語で「ケ」です。スピード感あふれるギター・インストゥルメンタルで、のっぺりしたギターが全開です。

 続いてボーカル曲「シティ・オブ・ライト」、またまたスピード感あふれるギズモ全開のインストゥルメンタル「イニシャル・スピード」ときます。そして、やたらと甘い甘いラヴ・ソング「ポストカード・ラブ」に行き着きます。高校生が書くような歌詞が何だか場違いで面白いです。

 最後はまたギズモが活躍する「ザット・フォーリング・フィーリング」で締まります。こう聴いてくるとB面もなかなかでしたあれ?。全体にビル・マコーミックのベースが冴えわたっていて、このベースが甘い曲も勇壮な曲もスピード感あふれる曲もすべてをかっちり締めています。

 801は、このアルバムを発表した後、ツアーに出ます。ステージではかような大所帯になるわけにはいかないので、少人数での引き締まった演奏が繰り広げられました。ツアーの音源は丁寧に発掘されてきており、そちらも今では容易に手に入るようになりました。

Listen Now / Phil Manzanera/801 (1977 EG)

*2013年3月8日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Listen Now
02. Flight 19
03. Island
04. Law And Order
05. Rude Awakening (bonus)
06. ¿Que?
07. City Of Light
08. Initial Speed
09. Postcard Love
10. That Falling Feeling
11. Blue Gray Uniform (bonus)
12. Remote Control (bonus)

Personnel:
Phil Manzanera : guitar, piano
Simon Ainely : vocal
Bill MacCormick : bass, vocal
Dave Mattacks : drums
Mel Collins : sax
Billy Livsey : piano
Simon Phillips : drums, percussion
Ian MacCormick : vocal, harmonica
Kevin Godley : vocal, percussion
Lol Crème : vocal, gizmo
Eddie Jobson : piano
Eno : synthesizer, guitar, treatment
Tim Finn : vocal
Billy Livsey : piano, clarinet
Alan Lee : vocal
John White : tuba
Rhett Davies : organ, frog
Eddie Rayner : piano