ライスと聞くと、まずはお米を思い浮かべてしまいますが、このライスはRではなくLで始まるライス、すなわち「シラミ」です。イギリスから登場した4人組のロック・バンドの名前がシラミ、これがパンクでなくてなんでしょう。久しぶりにすかっとしたいい名前です。

 「ウェイストランド」はライスによるデビュー・アルバムです。うっかりしていましたが、2010年代後半のイギリスではギター・バンド復興の動きがみられたそうで、ライスもその例にもれず、ボーカル・ギター・ベース・ドラムの四人編成のロック・バンドで登場しました。

 ライスの結成は2016年のことで、結成の地はブリストルです。ブリストルといえばポップ・グループを始めとするポスト・パンクの重要バンドを多く輩出した地で、土地の精神はライスにも宿っています。パンクな名前のライスは、ポスト・パンクの系譜にしっかりと連なります。

 バンドは結成すると間もなくデモ・カセット、翌年にはシングルを地元のレーベルからリリースしており、やがて先輩格となるアイドルズの支援を受けることになります。アイドルズのレーベルからEPを発表し、さらにアイドルズのツアーでサポートを務めました。

 地道にフェスに参加するなどした活動が実を結び、2020年には初のヘッドライン・ツアーを行うことが決まりました。しかし、ここでコロナ禍です。ツアーは始まったものの中途でキャンセルされてしまいます。この世代の人々は本当にお気の毒です。

 しかし、若いライスはこれにめげることなくアルバム制作に励みます。そうして2021年1月、コロナ禍の最中ではありましたが、めでたく本作品を発表しました。しかも自身のレーベルを立ち上げて、そこから発表するという見事なDIYぶり、ポスト・パンクの鑑です。

 ジャケットにはダリを思わせるちょっとレトロでちょっと未来な絵が使われています。これはエアブラシに定評のある人気イラストレーター、ピーター・サヴィルによる作品です。バンドのロゴはクラスのようですし、このあたりの感覚からしてポスト・パンク的です。

 アルバムのサウンドは「ポスト・パンクを軸にミニマリズム、プログレ、インダストリアルを調和させた実験精神と初期衝動を感じさせるバンド・サウンド」であり、イギリスでは「最もエキサイティングで刺激的、そして純粋に狂った新世代ギターバンド」と言われています。

 ポスト・パンクとはいえ、現在のバンドですから、ダンスの要素ももちろん入っています。いろいろな言葉を重ねていかないとなかなか表現できないサウンドです。ただし、ヒップホップ側ではないので、ロック中心のメディアには大変こころよく受け入れられています。

 ワイヤー、スーサイド、バースデイ・パーティー、ペル・ユビュなどライスのサウンドを紹介するためにさまざまな名前が挙げられます。直接的にはアイドルズのはずですが、メディアはもっと昔に戻りたい。私としては共演したこともあるというザ・フォールがしっくりきます。

 ポスト・パンクも大昔の言葉ですが、ライスのサウンドは新鮮です。この時代に正統派のロックを続けるのは大変なことでしょうが、四人の若者が制作したこのアルバムを聴いていると、前途洋々な気がしてきました。ポスト・パンクの復権もありそうです。

Wasteland : What Ails Our People Is Clear / Lice (2021 Settled Law)



Tracks:
01. Conveyor
02. Imposter
03. Expontaneo
04. R.D.C.
05. Pariah
06. Persuader
07. Arbiter
08. Serata
09. Deluge
10. Folla
11. Clear

Personnel:
Alastair Shuttleworth : vocal
Bruce Bardsley : drums
Gareth Johnson : bass
Silas Dilkes : guitar
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Holly Mullineaux : vocal
Katy J Pearson : vocal
Lottie Pendlebury : vocal