私たちは生まれ育った土地や民族人種などを持ち出して、差異を納得することがよくあります。フィル・マンザネラの独特のギターを説明する際に、ラテン系の血をひく英国人の父とコロンビア人の母の存在、幼少期をハワイや南米で過ごしたことがよく引き合いに出されます。

 それなりに説得力があるので、彼のギターが一般的な英国のギタリストとは違うことに納得がいきます。しかし、ラテンかと言われるとどうでしょう。私はあまりラテン音楽に詳しくはありませんが、ボートラを除けば、この作品にさほどラテンの要素が入っているとも思えません。

 ただ、彼の公式HPによれば、確かに彼は十代の頃に60年代のロックン・ロールとラテンのリズムの融合に夢中になっていたようです。メレンゲやクンビア、メキシコのボレロなどだそうで、彼の芸名マンザネラはメキシコのアルマンド・マンザネロにちなんだ名前だそうです。

 しかし、そこまで言われても、それほどラテンっぽくないように感じます。やはり彼が繰り出すサウンドは、ブルースやR&Bの匂いが全くしない、英国カンタベリー周辺を拠点にしていたソフト・マシーンなどのプログレの系統に素直に連なります。

 この作品はフィル・マンザネラの初ソロ・アルバム「ダイアモンド・ヘッド」です。ロキシーからはブライアン・フェリーがソロを出している他、1974年にはサックスのアンディー・マッケイもソロ・アルバムを出しています。満を持してマンザネラもソロ・デビューを飾ったわけです。

 実は、これと同時に以前の彼のバンド、クワイエット・サンのリユニオン・アルバムを録音していますが、もともとはそちらの企画をレコード会社に進言したのに蹴られたので、苦肉の策としてソロ・アルバム制作を思い立ったという面白い経緯があります。

 この作品は、一言で言うと大傑作です。まずは冒頭の「フロンテラ」。味のあるマンザネラのギター・カッティング、ロバート・ワイアットの珍しくアップテンポな天才的なボーカル。この曲だけでもアルバムを買う価値がある大大名曲です。とにかく素晴らしい。

 続く表題曲は、ギタリストのソロ・アルバムらしいインスト曲です。エディー・ジョブソンのキーボード、ジョン・ウェットンのベース、ポール・トンプソンのドラムと当時のロキシーの面々をバックにイーノによるトリートメントを受けたギターの甘い調べにうっとりします。

 ギタリストのソロにしては、ボーカル曲が多いところにマンザネラの控え目でいい人な性格が表れていると思います。ボーカルはワイアットの他には、イーノやジョン・ウェットン、クワイエット・サン仲間のビル・マコーミック、それに紅一点のドリーン・チャンターがとっています。

 他にもロキシーのアンディー・マッケイや元キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドなんていう人たちも参加していて、いい味を出しています。決して単なるゲスト扱いではなく、ちゃんと対等の立場に立っているところがほのぼのしていていいですね。

 こうして聴いてみると、ロキシーの音におけるフィル・マンザネラの役割の大きさがよく分かります。この独特のギターなしにはロキシーの音はなかったでしょう。どこがと言われると困るのですが、とにかく不思議に無邪気なギターなんですよね。

Diamond Head / Phil Manzanera (1975 Island)

*2013年2月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Frontera
02. Diamond Head
03. Big Day
04. The Flex
05. Same Time Next Week
06. Miss Shapiro
07. East Of Echo
08. Lagrima
09. Alma
(bonus)
10. Carhumba

Personnel:
Phil Manzanera : guitar, synthesizer, organ, piano, vocal
***
John Wetton : bass, vocal, mellotron
Paul Thompson : drums
Eno : vocal, treatments, guitar
Robert Wyatt : vocal, timbaless, cabasa
Andy Mackay : sax, oboe
Eddie Jobson : stringsm clavinet, synthesizer
Doreen Chanter : vocal
Bill Maccormick : bass, vocal
Brian Turrington : bass
Danny Heibs : percussion
Chyke Madu : percussion
Sonny Akpan : percussion
Charles Hayward : percussion
Dave Jarrett : keyboards
Iain MacDonald : bagpipes