クラウトロックを代表するバンド、カンのライヴ・シリーズもはや第五弾を迎えました。当初の予定を超えて続いてきました。監修を担当するイルミン・シュミットとルネ・ティネーの元には続々とライヴ・テープが送られてきているようですから今後も期待したいものです。

 本作品は「ライヴ・イン・アストン1977」と記されている通り、1977年に英国バーミンガムのアストン大学で行われたライヴを収録したものです。LPでも1枚のみですから、ライヴ全体を収録したわけではないことが分かります。編集もされている模様です。

 このシリーズは「貴重なアーカイヴ音源を現代の技術と繊細な作業により最高のクオリティで見事に復元」するものです。本作品も音質的には見事なクオリティとなっていますけれども、惜しむらくは資料的な部分があまり丁寧ではなく、ライヴの詳細がよく分かりません。

 そして、ライナーノーツは元セックス・ピストルズのグレン・マトロックが書いていますけれども、これも直接このライヴとは関係ありません。マトロックのカンへの思いが記されているのみです。思えば、私もピストルズを通じてカンと出会ったので、これはこれで貴重ですが。

 このライヴが行われたのはどうやら1977年3月4日らしいです。1991年にそのステージの一部を収めた「グレート・ブリテン1977Vol.2」なる海賊盤が出されています。本作品はこの海賊盤と切り取り方も含めてほぼ同じ内容になっています。

 公式サイトには、この時期のカンはメンバーを加えて発表した「ソー・ディライト」の悪評の最中にあったと記されています。ただ、同作品の発売はこのライヴの3日前です。やや疑問なしとしませんが、まあ悪評もカンのライヴには関係ないという結論ですからよしとしましょう。

 さて、本作品の目玉はトラフィックのロスコ・ジーが参加していることです。ジーはこのライヴでベースを担当しており、もともとのベーシスト、ホルガー・シューカイはラジオとエレクトロニクスに専念しています。この布陣はライヴ・シリーズとしては初めてです。

 ジーはカンが解散する1979年までベースを担当していますから、カンのライヴにもよく馴染んだ人であることが分かります。ただし、本作品ではもこもこしたベース音がサウンドの背景を形作っており、やや意外な感じのするベース・サウンドになっています。

 本作品はシリーズの伝統にならって、曲目はすべて「アストン77」として、1から4まで連番が付されています。海賊盤では、それぞれ「フィズ」、「ビタミンC」、「ピンチ」、「ディジー・ディジー」と曲名が付されていますが、いつものようにこれはない方がいい。

 アルバムでは約46分にわたって、カンによるジャム演奏が繰り広げられます。史上最もサンプリングされたというヤキ・リーベツァイトのメトロノーム・ドラムが背骨となって、えもいわれぬグルーヴが延々と続くのです。今回も素晴らしいです。病みつきになること請け合いです。

 欲をいえば、ライヴの後半も収録してほしかったですし、ないものねだりですが、もう一人の追加メンバーであるリーボップ・クワク・バーの演奏も聴きたかった。しかし、まずは本作品の正式発表に感謝しましょう。カンのライヴにははずれなしが証明されています。

Live In Aston 1977 / Can (2024 Spoon)



Tracks:
01. Aston 77 Eins
02. Aston 77 Zwei
03. Aston 77 Drei
04. Aston 77 Vier

Personnel:
Holger Czukay : waveform radio, spec. sounds
Irmin Schmidt : keyboards
Jaki Liebezeit : drums
Michael Karoli : guitar
Rosko Gee : bass