1980年代に入ってもタンジェリン・ドリームは快調です。本作品は1980年5月に発表されたスタジオ・アルバムとしては10作目になる「タングラム」です。タングラムはおもちゃの名前だそうですが、バンド名と似ているということでアルバム・タイトルに使われました。

 この年の1月にタンジェリン・ドリームは東ベルリンでコンサートを行っています。まだ東西冷戦の最中に西側のアーティストとして初めてライヴを行ったのですから歴史的な出来事です。デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」ばかり取りざたされますが、TDも一役かっています。

 エドガー・フローゼにとって東ベルリンでのライヴは感慨深いものがあったことでしょう。フローゼは東ドイツ生まれですが、1歳の時にその地がソ連に併合され、フローゼは家族とともに故郷を捨てざるを得ませんでした。根っからのコスモポリタンだと自称する所以です。

 前作発表後、タンジェリン・ドリームからはドラムのクラウス・クリューガーが脱退しました。代わりに加入したのがヨハネス・シュメーリングです。幼少期からパイプオルガンに親しみ、さまざまな教会でプロとして演奏した後、大学でサウンド・エンジニアリングを学んだ人です。

 シュメーリングは西ベルリンの劇場でサウンド・エンジニアとして働いていた時にフローゼと出会い、オーディションを経てTDに加入しました。1979年のことで、よほどうまがあったのか、東ベルリンでのライヴの頃にはすっかりTDサウンドに溶け込んでいたとのことです。

 ドラマーに代わってキーボード奏者が加わったことで、タンジェリン・ドリームは以前のキーボード・トリオに戻りました。やはりこのトリオの形が座りがいいです。シュメーリングの加入により、ピーター・バウマン脱退以降、しばらく続いた不安定期を脱することとなりました。

 本作品は東ベルリンでの歴史的ライヴを終えて数週間後にその制作が始まりました。そのこともあり、同ライヴで演奏された曲と本作品の楽曲との類似性は高いです。ライヴで練り上げた曲がスタジオに反映されるというTDにしては珍しい形になっています。

 生ドラムがなくなってキーボード・トリオに戻ったことから、本作品は「フェードラ」や「ルビコン」などヴァージン初期のサウンドに回帰したと言われることが多いです。レコードではパート1とパート2に分かれていますけれども、実質的には全1曲の構成もクラシックです。

 しかし、延々とシーケンサーのループが続いた以前の作風とはやはり大きく異なります。より複雑なリズム・パターンとなり、明快なメロディーの数々でしっかりと曲が構成されています。ドイツの実験的なプログレ勢とは異なり、華やかなシンセサイザーの世界が展開します。

 その意味では「サイクロン」や「大いなる標的」とももちろん地続きのアルバムです。本作品はヴァージン初期以降に進んできたメロディー主体の電子音楽の集大成として人気が高い作品なのです。シュメーリングとのトリオはこの路線にはぴったりです。

 本作品は英国ではトップ40入りするヒットとなりました。評判もすこぶるよく、タンジェリン・ドリームの代表作の一つに数えられる作品になりました。40分程度の楽曲が1曲なのですが、起伏が激しくて忙しい忙しい。とはいえ気持ちよく聴いていられる作品ではあります。

Tangram / Tangerine Dream (1980 Virgin)



Tracks:
01. Tangram Set 1
02. Tangram Set 2

Personnel:
Edgar Froese : keyboards, guitar
Christopher Franke : keyboards, electronic percussion
Johannes Schmoelling : keyboards