「激烈カルトなサックス入りノー・ウェイヴ・ポスト・パンクスの秘蔵コンピ!!」なる宣伝文句に惹かれて購入した作品です。アーティストはオットー・ケントロール、フィーチャーされているのはフェイスレス、作品のタイトルは「ノー・ミステイク」です。

 オットー・ケントロールもフェイスレスもウィスコンシン生まれのアーティスト、ビル・イリタロによるプロジェクトです。音源は1980年から84年の間にイリタロが残したものです。2022年になってまとめて再発されたわけですから、確かに「秘蔵コンピ」の名にふさわしい。

 イリタロは2歳の時にテレビの電源コードを食べて感電しました。命に別状はなかったものの、この時の次元を超えて別世界を垣間見た経験が忘れられず、以降の人生にて、超常的な経験を求め続けることになったとのことです。面白い話です。

 子どもの頃から音楽に囲まれて育ったイリタロは、高校を卒業するとカレッジでクラシック音楽を学び、やがてジャズに傾倒し、さらにパンクにはまって音楽活動を始めます。1980年前後に青春を過ごした音楽好きの若者の典型的な道行きであろうと思います。

 一方で、イリタロは、コミュニティ・ラジオで音楽番組のMCをつとめることになります。その時に別名として名乗ったのがオットー・ケントロールです。オットーはアヴァンギャルドから何から先鋭的な音楽に浸るキャラクターとしてその役目を果たしていきます。

 この頃、イリタロはアート・アンサンブル・オブ・シカゴのロスコー・ミッチェルに師事しています。再びジャズに入れ込んだイリタロはニューヨークに出てセシル・テイラーのバンドでサックスを吹くなどしています。本格的な前衛ジャズのキャリアです。

 その後、ウィスコンシンに戻ると、今度はジャズ・ギタリストのスティーヴ・ティベッツと出会い、彼の助力で、全楽器を一人で演奏したシングル盤「ラーン・グリーク・イン・グリース」を自主制作しました。名義はもちろんオットー・ケントロールです。

 この作品に興味を示したドイツのレーベルが、これを自身で発売するとともにフル・アルバムの制作を持ち掛けます。イリタロはこれに応え、オットー名義のソロと、フェイスレスなるバンド名義のスプリット・アルバムを制作しました。「ゴースト・ボーイ/フェイク」です。

 フェイスレスはイリタロを中心とするトリオ編成のバンドで、アルバム発表後にはソニック・ユースやアインシュテュルツェンテ・ノイバウテンなどとドイツをツアーしています。本作品はこれら2作品にオットー名義の自主制作デモなどを加えたコンピ作品です。

 オットーは、DIY的なサウンドにイリタロの本格的なサックスが加わるサウンドであったために、コントーションズに代表される当時のノー・ウェイヴ勢とよく比較されますが、こちらはより音楽的ですし、老成した感じもします。イリタロのサックスの素晴らしさが耳をうちます。

 フェイスレスはパンク・ブルース的なサウンドになっており、スプリットにした本懐が分かります。レジデンツをより音楽的にしたような感覚もあり、百花繚乱のポスト・パンク・サウンドの中でも特異な位置を占めるサウンドだといえます。これはなかなかの傑作ですよ。

No Mistake / Otto Kentrol featuring Faceless (2022 Modern Harmonic)



Tracks:
01. No Mistakes
02. What About My Engine Rebuild
03. At The Water
04. Learn Greek In Greece
05. Public Eye
06. My Generation
07. Ghost Boy
08. Retread
09. Lady In Cement
10. Young
11. Who Are The Flowers From
12. Drive
13. Fly Line
14. Slut
15. Amgonna Kear
16. Our Secret
17. The Man With The Flashlight
18. Fake
19. Looking Back
20. Scrap Heap
21. Ghost Boy Instrumental
22. 283
23. County K
24. Fun To Be Fake
25. Kids In Kanvas
26. A Light In A Line
27. Meat
28. Sing Along
29. Wong Family

Personnel:
Bill Ylitalo : guitar, vocal, sax etc.
Rick Tarantelli (Bongo Rrick Ali) : drums, percussion, vocal
James Qinlan (Yanking Q) : bass, piano, vocal
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Dana Desnoyers : drums
Chris Morgan : drums, electronics
Brian Farmer, Joachim (Ackee) Lartey : talking drum, percussion