「サボタージュ」を発表した後、ブラック・サバスはお約束通りツアーに出ます。この時の前座はキッスだったといいますから面白いです。しかし、オジー・オズボーンがバイクで事故を起こしてケガをしたことから、ツアーは中途でキャンセルされてしまいます。

 この時のツアーにはキーボード奏者のジェラルド・ウッドロフが参加しており、彼はそのまま本作品「テクニカル・エクスタシー」の制作に加わります。前作にも少し参加していましたが、本作品では全面的に参加しており、キーボードの比重が増してきたことが分かります。

 本作品はマイアミで制作されました。オカルトや悪魔の大敵である太陽輝くビーチのマイアミです。オカルト成分に不足が生じるのではないかと危惧されますが、案の定本作品の制作は結構難儀した様子です。オカルトに不足すると酒やドラッグにはまるサバスです。

 今回の難儀はメンバーがトニー・アイオミに仕事をまかせっきりにして、ビーチで遊んでいたということから生じたらしいです。おまけに新しいマネージャーはエレクトリック・ライト・オーケストラで忙しく、そちら方面からのサポートも得られなかった模様です。

 そしてオズボーンは本作品の制作途中からバンドを去ることを真剣に考え始めており、さらに酒とドラッグに溺れていきます。本作品のオズボーンが何となく影が薄い所以です。本作品中の「イッツ・オーライ」ではビル・ウォードにリード・ボーカルの座を譲っています。

 アイオミを中心に制作された本作品では、1970年代半ばらしいロック・サウンドが聴かれます。この頃に十代半ばだった私には文句なしにしっくりくるサウンドです。ベースのギーザー・バトラーはパンクに言及していますが、どちらかといえばメインストリームのロックです。

 ちょうどサバスがレコーディングしている隣でイーグルスが「ホテル・カリフォルニア」をレコーディングしていたそうです。70年代半ばの王道中の王道です。サバスの大きな音が漏れてきて、何度もレコーディングが中断したといいますから面白いです。

 イーグルスは言い過ぎにしても、本作品はアイオミが意識していたというクイーンやフォリナーのサウンドとの親和性が高いです。重厚なギター・リフを中心としたサバス・サウンドは健在ですが、オカルト風味は薄れ、灰汁が抜けてきました。洗練、というと少し違いますが。

 そんなわけで、私にはとても聴きやすいサウンドです。「きたない女」を始め、いい曲ばかりですし、これはこれで名作だと思います。しかし、本作品はヒットはしたものの、これまでのような勢いはなく、英国ではトップ10、米国ではトップ40を逃してしまいました。

 この明るいイラスト・ジャケットはヒプノシスが制作にあたりました。機械同士がエスカレーターですれ違いざまに恋に落ち、エクスタシーに達するという光景が描かれています。明るい色調といい、機械が題材になっていることなど、ブラック・サバスらしくありません。

 しかし、左の丸い機械は男性器で射精しているところだと解釈すると、これもまた禍々しい感じがします。発表当時、どこかで読んだ記憶があるのですが、どうやら誤解らしく、ヒプノシスによれば右が男性、左が女性で、そのステレオタイプ表現が反省されています。
 
Technical Ecstasy / Black Sabbath (1976 Vertigo)



Tracks:
01. Back Street Kids
02. You Won't Change Me
03. It's Alright
04. Gypsy ジプシーの誘惑
05. All Moving Parts (Stand Still)
06. Rock 'n' Roll Doctor
07. She's Gone
08. Dirty Women きたない女

Personnel:
Ozzy Osbourne : vocal
Tony Iommi : guitar
Geezer Butler : bass
Bill Ward : drums, vocal
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Gerald "Jezz" Woodroffe : keyboards