知らないということは恐ろしいことです。私はブラック・サバスの6枚目のアルバム「サボタージュ」のジャケットをとても禍々しいものだと勝手に思っていました。何を隠そう、ジャケットの四人が蝋人形だと思い込んでいたのです。東京タワーにもトニー・アイオミがいましたし。

 実際は生身のメンバーが変な格好でただ立っているだけでした。鏡の反射は禍々しいのですが、ロック界最悪のアルバム・ジャケットであるとまで言われており、アイオミも後悔しています。ビル・ウォードなどは奥さんの赤いタイツを履いている始末です。

 本作品は前作から1年半以上のインターバルを置いて発表されました。本作品を制作した時には、バンドは前マネージャーとの法廷闘争の真っ最中でした。制作中にはずっと弁護士が立ち会っていたということですから、気の抜けない結構大変な戦いだったようです。

 ブラック・サバスというバンドは、いつも落ち着いてアルバム制作に臨めませんね。ただ、ヘヴィメタルはこうした音楽とは関係ないところでの葛藤をエネルギーに変えるところがあります。この点はパンクも同様ですが、ヘヴィメタルはより私的トラブルが多い。

 ともあれ、マネジメント・サイドとの法廷闘争という事態に、バンドは自分たちが四面楚歌の状況に置かれていると感じたそうです。言い換えれば、バンドをサポートすべきマネジメントにサボタージュを受けているということです。それでタイトルは「サボタージュ」です。

 そんな状況で制作された本作品は、前作に比べるとよりダークで重いサウンドになっています。アイオミは前作のようなテクニカルな方向を深める道もあったけれども、ここではロック・アルバムを作りたかったんだと発言しています。意識的にヘヴィメタルなんです。

 アルバムは共同プロデューサー、マイク・ブッチャーによる♪アターック♪の叫びに導かれて、サバスらしい力強いギター・リフによる「ホール・イン・ザ・スカイ」で始まります。訴訟に対する立腹はアイオミのギターをよりハードでヘヴィにしているようです。

 アルバムは、お約束のアコギによる短いインスト「ドント・スタート」を挟んで、サバスの曲の中でも有名で後のメタル界に大きな影響を与えた「悪魔のしるし」へと繋がっていきます。なお、この曲は終盤になるとアコギによるファンキー・スタイルへと変わっていきます。

 ストレートなロック・アルバムを意図してはいるものの、やはり前作ないし前々作で試みた実験はここでも続いています。「帝王序曲」では男声合唱団が挿入されていますが、これはウォードによれば悪魔の合唱だということです。それで男声なのでしょう。

 アルバム中の人気曲は「発狂」でしょう。オジー・オズボーンがモーグを操って作った曲でモーグもオジーが演奏しています。タイトル中の「ラジオ」は「ラジオ・レンタル」、そして「メンタル」という英国らしいライミングです。ここでオジーは自身のことを歌っている模様です。

 この力強いヘヴィなアルバムは好意的に受け止められ、英国で7位、米国で28位と健闘しました。しかし、米国では初めてプラチナ・ステータスを逸しました。その意味では人気に少し陰りが出てきたといえるかもしれません。これまた傑作だと思うのですけれども。

Sabotage / Black Sabbath (1975 Vertigo)



Tracks:
01. Hole In The Sky
02. Don't Start (Too Late)
03. Symptom Of The Universe 悪魔のしるし
04. Meglomania 誇大妄想狂
05. Supertzar 帝王序曲
06. Am I Going Insane (Radio) 発狂
08. The Writ

Personnel:
Ozzy Osbourne : vocal
Tony Iommi : guitar, piano, synthesizer, organ, harp
Geezer Butler : bass
Bill Ward : drums, percussion, piano, chorus
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Will Malone : conductor
English Chamber Choir