「ダズ・ヒューモア・ビロング・イン・ミュージック?」は、私がフランク・ザッパ先生の沼にはまるきっかけとなった作品です。リアルタイムで買ったのですが、一聴してがつんときたというよりも、じわじわと引きずり込まれていきました。毎日毎日飽きもせずに聴いたものです。

 ヨーロッパのEMIレーベルから発売された際には何の面白みもないジャケットでしたけれども、再発にあたって、お馴染みのカル・シャンケルのイラスト・ジャケに差し替えられました。これで先生の作品群の中においても違和感がなくなりました。

 本作品は「200モーテルズ」と並んで、なかなか先生が自らの手に権利を取り戻すことができなかった作品です。リアルタイムで買えた私は運が良かったようで、本作品は長らく入手困難盤となっていたのでした。沼の入り口にふさわしい作品だけに残念です。

 本作品はいわゆる84年バンドとして知られるバンドによるライヴを収録した作品です。同名のビデオも発売されています。バンドは1か月のリハーサルの後、マザーズのデビュー20周年を記念する5か月に及ぶツアーに出ました。本作品はそのツアーのライヴです。

 ビデオとCDでは曲目はほとんど変わりませんが、演奏は全然違います。ビデオは1984年5月から8月のライヴ、CDは10月から12月のライヴから採られています。さらにCDでは先生が「ゼノクロニー」と呼ぶ手法を使って演奏を再構成しています。

 これは異なる楽曲のいくつかの部分をシンクロさせて再構築し、新たな楽曲を生み出すという手法です。同じ楽曲の別の演奏をつなげるだけではなく、別の曲も組み込む離れ業です。先生はアナログ時代からこんな手法を使っていたわけですから凄いです。

 「奇妙な同時性」とも表現されるこの手法で、より具体的には別の会場での別の楽曲のギター・ソロが挿入されたりして違和感がありません。今回はライヴ素材だけが使われており、高らかに「ノー・オーバーダブ」と宣言されています。見事な手腕です。

 そのようにして出来上がった作品は先生の作品入門編として申し分ありません。デビュー・アルバムからの「トラブル・エヴリィ・デイ」を始めとする代表曲も聴けますし、オールマン・ブラザーズ・バンドの「ウィッピン・ポスト」のカバーもあります。超絶技巧が堪能できます。

 ステージ自体の楽しさはビデオの方にどうしても軍配が上がります。芸達者揃いのユニークな演奏風景が楽しめます。CDでももちろんショーの楽しさは分かりますけれども、ここではむしろ各楽曲にほぼ必ず挿入されているギター・ソロを堪能したいです。

 何といっても「ホワッツ・ニュー・イン・ボルティモア」のギター・ソロにとどめをさします。珍しくロング・トーンを使ったポップで素敵なソロにははらわたをかきむしられます。「レッツ・ムーヴ・トゥ・クリーヴランド」もいい。超絶技巧バンドの演奏は本当に素晴らしいです。

 マザーズの頃に比べるともちろんのこと、その後のザッパ・バンドに比べても先生の独裁色が強くなりすぎているきらいがなくはないのですが、とにかく最上のエンターテインメントを楽しむことができる見事な作品です。あの頃、この作品に出会えた幸運に感謝しています。

Does Humor Belong In Music? / Frank Zappa (1986 EMI) #045

*2014年3月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Zoot Allures
02. Tinsel-Town Rebellion
03. Trouble Every Day
04. Penguin In Bondage
05. Hot-Plate Heaven At The Green Hotel
06. What's New In Baltimore?
07. Cock-Suckers' Ball
08. WPLJ
09. Let's Move To Cleveland
10. Whippin' Post

Personnel:
Frank Zappa : lead guitar, vocal
Ray White : rhythm guitar, vocal
Ike Willis : rhythm guitar, vocal
Bobby Martin : keyboards, sax, vocal
Alan Zavod : keyboards
Scott Thunes : bass
Chad Wackerman : drums
Dweezil Zappa : guitar