パンクが封印を解いたかのように、イギリスではさまざまなスタイルのバンドが登場してきました。今ではポスト・パンクと呼ばれることが多いですが、当時はニュー・ウェイヴと呼んでいました。この波はドイツにも波及し、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレと呼ばれます。

 ライフェンシュタールはノイエ・ドイッチェ・ヴェレを代表するとまではいえませんが、確実にその流れのバンドです。ただし、このアルバムのジャケットはまさにノイエ・ドイッチェ・ヴェレのイメージを代表しています。モノクロ、クルー・カット、ホラー、ユーモア・・・。

 本作品はライフェンシュタールのデビュー・アルバム、「秘密兵器あらわる」です。ライフェンシュタールはマティアス・ラップとゲルト・ガイダの同級生によるコンビとして1979年に結成されました。ガイダはPA機材のレンタルをしていたそうですから宅録には最適ですね。

 ライフェンシュタールが制作した宅録デモが、PAを借りに来たインク・レコードのマイク・シュミットに気に入られると、とんとん拍子にレコード・デビューが決まります。デビュー・シングル「ラジオ・モスクワ」です。ロシアのプロパガンダ・ラジオ番組を取り上げた曲です。

 「ロシアが戦争の準備中だ」と警告した曲で、これが全くの間違いでないところが残念です。またバンド名はナチスのプロパガンダ映画となった「民族の祭典」を監督したレニ・リーフェンシュタールにちなんでいます。ライフェンシュタールの眼差しは真摯です。

 バンド名はリーフェンシュタールと綴りが異なるのですが、これはレイ・ブラッドベリの小説の中で使用された間違った綴りを採用しています。「くたびれた鉄」という皮肉な意味になります。リーフェンシュタールといえば「ヌヴァ」のはずですが、ナチスの軛は外れませんでした。

 本作品ではよくない方向に変わっていた音楽シーンに活をいれようと、「様々な音楽のセットピース、断片やお約束なんかを最小限のやり方でごちゃ混ぜにした。だから古いロックン・ロール、バッハ、レゲエ、ファンクなんかの断片が」ぶちまけられています。

 ライフェンシュタールはレジデンツやペル・ウブ、イギリスのプログレッシヴ・ロックに影響を受けています。特にレジデンツの影響は顕著だと思います。「自分たちはポップ・ミュージックをバラバラにして、特別なやり方で再構成するのが好きだった」わけですから。

 いかにもノイエ・ドイッチェ・ヴェレらしく、すかすかのサウンドを奇矯なユーモアで紡いでいくスタイルです。エレクトロニクスが中心ですけれども、さまざまな楽器やら何やらが使われており、音色は豊富で飽きません。曲も短くて玉手箱のようになっています。

 アルバム最後の曲はスタジオでのライヴ・セッションです。曲らしい曲になるわけでもなく、かといってノイズらしいノイズになるでもなく、聴きやすいちょうどよい感じのサウンドが出てきます。ウォール・オブ・サウンドめいているのでアルバムの中では異色です。

 ノイエ・ドイッチェ・ヴェレを最初に紹介したのはロック・マガジンでしょう。その大阪本社で販売されていた一群のLPの中でもっとも印象に残っているのが本作品です。そんな個人史もあって、本作品は私の中ではノイエ・ドイッチェ・ヴェレを代表するアルバムです。

Die Underwaffe / Reifenstahl (1981 Ink)



Tracks:
01. One Two
02. Die Wunderwaffe
03. Der Wüstenfuchs
04. Epilog
05. Space Invaders
06. Zerbröckelnde Gesellschaftsstrukturen
07. Bonanza
08. Intellektuell
09. Reumutige Raumfahrer
10. Tritt Bitte nicht auf mein Glas
11. Je T'Air (Ich cich Luft)
12. Ich denke oft an dich (live version)
(bonus)
13. Radio Moskau
14. Der Rezensent
15. 45 Sterne

Personnel:
Gerd Gaida
Mathias Rapp