ブラック・サバスの3枚目のアルバム「マスター・オブ・リアリティ」はサバスの最高傑作に推す人が多い傑作です。前作から約1年、今回は1日とか3日とかそういう単位ではなく、2回に分けて1週間ずつレコーディングが行われています。納得の作品でしょう。

 今回もヴァーティゴのスタッフ・プロデューサーであったロジャー・ベインがプロデュースに当たっていますが、これまではまるでスタジオ素人だったサバスの面々もずいぶん口を出しました。結局、ベインにとってはこれが最後のプロデュース作品になりました。

 勢いで突っ走った前二作とは対照的です。じっくりと自分たちのサウンドに向き合った結果として完成したアルバムです。その結果、サバスは後にヘヴィメタルとして一大ジャンルが築かれるサウンドの祖型を完成させました。歴史に残る作品と言われる所以です。

 ヘヴィなサウンドの原因として、しばしば言及されるのは1音半下げのチューニングです。ギターのトニー・アイオミは以前工場で働いていた時に右手の指先を切断しており、弦を抑える側の手なのでさまざまな工夫をしてこれを乗り切ってきました。

 1音半下げもその工夫の一つです。そうすると弦のテンションが緩くなるため抑えやすくなります。これに合わせてギーザー・バトラーもベースを1音半下げてチューニングしています。その結果、弦楽器のサウンドは大きくかつヘヴィになっていきました。

 こうした偶然の産物もこれあり、独自のサウンドを見つけたサバスはスタジオにてより実験的なアプローチをとるようになりました。一日二日でレコーディングが終了するようなわけにはいかなくなったのもよく分かります。オーバーダブも導入しサウンドは練り上げられました。

 本作からは「チルドレン・オブ・ザ・グレイヴ」がシングル・カットされました。不穏な空気を運ぶギターのリフがかっこいい曲ですけれども、チャートインすることはありませんでした。ブラック・サバスにシングル市場は似合わないことの証左です。「パラノイド」は例外でした。

 それが証拠にアルバム自体は好成績を収めています。全英チャートでは5位、全米チャートでも初めてトップ10入りする大ヒットを記録しました。キャッチーなシングル向きの楽曲がなくなったことで、よりアルバムとしての統一感が増しました。もはや全部聴くしかないのです。

 この頃はヘヴィメタルという言葉は一般的ではありませんでしたが、ブラック・サバスがここで提示しているサウンドは後に隆盛を極めるヘヴィメタルの祖型になりました。ヘヴィメタルもさまざまなスタイルがありますが、サバスを先祖と明示する分野まであります。

 それがドゥーム・メタルやストーナー・ロック、スラッジ・メタルなどと呼ばれる1980年代以降のジャンルで、サバスが本作で完成させた、遅めのテンポによる重々しいダウナーな感覚のサウンドに強く影響を受けています。ヘヴィメタル勢は先達への敬意が強いです。

 とにかく通して聴くしかないアルバムです。恐怖の方程式はそのままに、派手さは減りましたけれども、より重々しく沈み込むようなサウンドが聴く者のはらわたに迫ってきます。これをサバスの最高傑作に推す人が多いのも道理の名作だと思います。

Master of Reality / Black Sabbath (1971 Vertigo)



Tracks:
01. Sweet Leaf
02. After Forever
03. Embryo
04. Children Of The Grave
05. Orchid
06. Lord Of This World
07. Solitude
08. Into The Void

Personnel:
Ozzy Osbourne : vocal, harmonica
Tony Iommi : guitar, flute, piano
Geezer Butler : bass
Bill Ward : drums, chorus