「決してひとりでは見ないでください」のキャッチフレーズとともに記憶に刻み込まれたホラー映画の金字塔「サスペリア」のサウンドトラック・アルバムです。映画は改めて見返してみるとなかなかのとんでも映画ではありますが、文句なく面白い傑作ではありました。

 サウンドトラックを担当しているのはゴブリンです。ゴブリンはもともとオリヴァーという名前のロック・バンドでした。旅行中にイエスのプロデューサーのエディー・オフォードと出会い、英国でのデビューを夢見て渡英しましたが、夢破れてイタリアに帰ってきました。

 帰国後、幸運なことにシネヴォックスというイタリアのレーベルと契約を交わし、チェリー・ファイヴと改名してレコード・デビューすることができました。このシネヴォックス、主力はサントラの制作というレーベルだったために、腕達者なチェリー・ファイヴもそこに駆り出されます。

 同じ名前でサントラを出すと混乱するということで、サントラ制作にあたってはゴブリンという名前を使うことになりました。そしてその第一弾がややこしいですが「サスペリア2」、これがイタリアの年間チャートを制する大ヒットになりました。以降、バンドはゴブリンとして活動します。

 もともとサントラ制作にあたってはゴブリンは編曲して演奏するだけだったのですが、やがて作曲も行うようになります。本作品「サスペリア」はゴブリンが作曲も手掛けたサウンドトラックで、リーダーのクラウディオ・シモネッティも認める最高傑作です。

 なお、「サスペリア」は日本でも大ヒットしたため、同じダリオ・アルジェント監督の先行作品「プロフォンド・ロッソ」が遅れて本邦公開された際に、その人気にあやかって「サスペリア2」というとんでもない邦題をつけられました。ワイルドな1970年代の出来事です。

 「サスペリア」ではカメラを回し始める前に全曲が作られていたそうで、撮影現場ではその音楽が実際に流されていたとのことです。そして撮影終了後に改めて録音し直すという念の入れようです。それだけ映像と音楽が一体化しているのです。

 確かに映画を見ていると音楽の果たす役割が大きいです。ストーリー・テリングというよりも、視覚効果と聴覚効果を重視した映画ですから当然といえば当然です。しかも、最初からゴブリンはサントラとして作っているのですから強いです。

 サントラは有名な「サスペリアのテーマ」から始まります。ホラー映画のサントラといえば「エクソシスト」に使われたマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」が有名ですが、このテーマも決してひけをとりません。ホラー映画史上に残る名曲です。

 基本的にはロックなのですが、モーグ・シンセサイザーなどの電子楽器に加えて、タブラやブズーキなどのエスニックな楽器、恐ろし気な声やSEを駆使し、ミニマルなフレーズを連打するなど、とにかくアイデアが豊富に詰め込まれています。ザ・プログレッシブ・ロックです。

 演奏力に秀でたバンドが映画「サスペリア」というテーマを与えられて創作した作品です。当時絶頂にあったプログレッシブ・ロックの作品と肩を並べてもまったく遜色がありません。イタリアでは前作ほどのヒットになっていないのがまったく解せない大傑作です。

Suspiria / Goblin (1977 Cinevox)



Tracks:
01. Suspiria サスペリアのテーマ
02. Witch 魔女
03. Opening To The Sighs 謎の呻き声
04. Sighs 悪魔達の囁き
05. Markos エレナ・マルコス
06. Black Forest 暗黒の森
07. Blind Concert 闇の饗宴
08. Death Valzer 死のワルツ
(bonus)
09. Suspiria (Celesta and Bells)
10. Suspiria (Narration)
11. Suspiria (Intro)
12. Markos (alternate version)

Personnel:
Claudio Simonetti : mellotron, organ, string machine, celesta, piano, minimoog, moog system 55
Massimo Morante : guitar, bouzouki, voices
Fabio Pignatelli : bass, tabla, guitar, voices
Agostino Marangolo : drums, percussion, voices