半世紀以上も前に発表されたブラック・サバスのデビュー・アルバム「黒い安息日」です。もともとはセルフ・タイトルのアルバムですが、そのバンド名を直訳して邦題がつけられました。「安息日」がいかにもキリスト教的なので、黒魔術を強く印象付けます。

 ブラック・サバスは今でこそヘヴィメタルの元祖とされていますけれども、デビューしてからしばらくの間は、とにかく黒魔術とオカルトの印象が強く、これはこれで一つのジャンルを形成していました。当時のロックにあるまじきおどろおどろしくて禍々しい存在なのでした。

 バンド名はホラー映画からとられています。人々は恐怖を求めているに違いないとの慧眼に基づく命名です。デビュー作となる本作品はヴァーティゴ・レーベルから1970年2月13日の金曜日に発表されています。明らかに意図したものです。

 ジャケットもまるでホラー映画の一場面のようです。これは数々の名ジャケットを生んでいるキーフによるもので、本作品は今に至るも彼の代表作の一つです。マントの下は全裸だそうで、そう聞くとさらに恐ろしさが募ります。実に禍々しい。

 こうなってくると、本作品は恐怖をめぐるコンセプト・アルバムであるともいえそうです。オリジナル楽曲の歌詞もルシファーだったり魔法使いだったりしています。各楽曲の邦題はその傾向に掉さすようにカバー曲ですら「魔女よ、誘惑するなかれ」と徹底してきます。

 サバスはボーカルのオジー・オズボーン、ギターのトニー・アイオミ、ベースのギーザー・バトラー、ドラムのビル・ワードによる四人組です。ロック・バンドとしては最小編成です。ここに来るまでに一時は6人組だったこともあるそうですから、そぎ落とした結果の4人組です。

 恐怖はこの四人の繰り出すサウンドからも迫ってきます。邪悪を表現するとされていたトライトーンを駆使していること、あえてゆっくりとしたテンポで迫ってくること、オズボーンの声、アイオミのおどろおどろしいギター、ヘヴィなリズム・セクション、すべて同じ方向を向いています。

 アルバムはわずか1日で録音し、後一日でミックスを終えたといいます。ほとんどスタジオ・ライヴに近い形でとられていることがわかります。それでこの統一感ですから、メンバー間でよほどアルバムの内容について了解が統一されていたのでしょう。

 アルバムは英国で8位、米国では23位ながら1年以上もチャートに残るというヒットを記録しています。ブルースをベースにしたギター中心のヘヴィでストレートなロック・サウンドに恐怖で魔法をかけたスタイルは大いに人々に受け入れられました。恐怖は求められていました。

 黒魔術やオカルトをベースにした恐怖はきわめてキリスト教的でしたから、日本からみるといかにも映画の中の出来事のように思えました。そのせいで、ギターを中心とした若干泥臭めの分かりやすいサウンドだったにもかかわらず、当時はやや遠くに感じたものでした。

 とはいえ、半世紀がたって改めて聴いてみると、オズボーンの歌はもちろん、アイオミのギターもとても懐かしく身近に感じます。一つの歴史を作ったサバスの原点となるアルバムは初心の魅力にみちた素敵なアルバムだったとお茶をすすりながらため息をついています。

Black Sabbath / Black Sabbath (1970 Vertigo)



Tracks:
01. Black Sabbth 黒い安息日
02. The Wizard 魔法使い
03. Behind The Wall Of Sleep 眠りのとばりの後に
04. N.I.B.
05. Evil Woman 魔女よ、誘惑するなかれ
06. Sleeping Village 眠れる村
07. Warning 警告
(bonus)
08. Wicked World 悪魔の世界

Personnel:
Ozzy Osbourne : vocal, harmonica
Tony Iommi : guitar
Geezer Butler : bass
Bill Ward : drums