レッド・ツェッペリンやディープ・パープルに比べるとブラック・サバスの日本での知名度は低いと言わざるを得ません。サバスの名前が日本でインフレ気味に語られるようになったのは、時を経て、オジー・オズボーンがテレビで人気者になってからのことです。

 そんな日本でもサバスのセカンド・アルバムである本作品「パラノイド」はよく知られています。私はブラック・サバスを「パラノイド」の一発屋と思っている人に遭遇して心底驚いたことがあります。そういえばサバスに一般的な有名曲は確かにさほど多くありません。

 ユーチューブ・ミュージックでブラック・サバスを検索してみると、再生回数上位は、「パラノイド」、「アイアン・マン」、「ウォー・ピッグ」の順になっており、いずれも1億回を超える再生回数を誇っています。この3曲がすべて本作品に収録されています。

 本作品はデビュー・アルバムから半年強で発売されました。前作がわずか1日で録音されたのに対し、本作品は3日間かけてレコーディングされました。3倍の時間をかけていますが、まあ同じようなものです。スタジオ・ライヴ同然の作品です。

 アルバムは発表されるやサイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」を蹴落として全英ナンバーワンを獲得しました。少し前にはキング・クリムゾンがビートルズに代わって一位となったと聞かされていましたから、またもやロック界の世代交代かと世間はざわめきました。

 サバスのコンセプトは恐怖でした。本作品もデビュー作を踏襲して、その黒魔術イメージは健在です。何やらおどろおどろしいサウンドが全編を覆いつくしており、意図せざるコンセプト・アルバム感が満載です。サウンドの隅々まで恐怖が浸透しています。

 しかし、西洋と日本では何を怖がるのかというポイントが少し違っているので、やはり他人事のように感じてしまいます。要するに心底怖いということは全然なくて、黒魔術に恐怖する人々を傍観しているイメージです。それはそれで大そう面白いですが。

 ただ、このジャケットはどうでしょう。これまた有名なキーフの手になるものですけれども、まるで工事用ヘルメットをかぶり、風呂敷をマント代わりにはおった中年男がビニールの刀を振り回しているとしか見えません。お笑い番組のようです。怖いんですかね、イギリス人は。

 アルバムではA面に有名曲3曲が集まっています。この中ではなんてったってタイトル曲がいいです。急造された曲らしく笑っちゃうくらいシンプルですが、その破壊力はすさまじいものがあります。同様に♪あ~いあ~む、あいあんまん♪の「アイアン・マン」も凄い。

 ヘヴィメタル的にはむしろ人気曲のないB面の方が充実しているともいえます。キャッチーさに欠ける分、B面全体を一つのまとまりとして、トニー・アイオミのギターを中心にしたサバスのハードかつヘヴィな演奏を堪能することができます。ごつごつした演奏がいいです。

 ここで聴かれるイギリス流恐怖感覚ヘビー・メタルはとてもシンプルです。オジーは声域が狭いらしく、それもシンプルさを際立たせる一つの魅力になっています。ドスを効かせたボーカルの迫力はなかなかのものです。ミーハー的には素晴らしいアルバムだと思います。

Paranoid / Black Sabbath (1970 Vertigo)

*2012年8月1日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. War Pigs
02. Paranoid
03. Planet Caravan
04. Iron Man
05. Electric Funeral
06. Hand Of Doom
07. Rat Salad
08. Fairies Wear Boots

Personnel:
Ozzy Osbourne : vocal
Tony Iommi : guitar
Terry "Geezer" Butler : bass
Bill Ward : drums