フランク・ザッパ先生の数ある作品の中でもとびきりの異色作品です。先生のアルバムで最初から最後まで他人が作曲した曲ばかりで構成されているアルバムは後にも先にもこれだけです。普通にカバー曲ばかりというアルバムも聴いてみたかったですね。

 この作品はフランチェスコ・ザッパによる楽曲を演奏したアルバムで、その名もずばり「フランチェスコ・ザッパ」です。演奏はザッパ先生指揮によるバーキング・パンプキン・デジタル・グラティフィケーション・コンソートです。大そうな名前ですが、種を明かせばシンクラヴィアです。

 フランチェスコ・ザッパは1763年から1788年までの活動が記録に残っているイタリアの音楽家です。その後、若干研究は進み、もう少し長い期間の活動が分かるようになっているようですけれども、相変わらず生没年は不詳とのことです。

 フランチェスコの存在を知った先生は、これも何かの縁ということで、大学の図書館に通いめでたく彼の楽譜を見つけます。そうして、それをシンクラヴィアで演奏するという快挙を成し遂げました。私も珍しい苗字なので気持ちが少し分かります。

 誰もが先生の冗談ではないかと思ったものです。本当はフランチェスコ・ザッパなどという人は実在せず、先生がシンクラヴィアの実験のためにでっち上げたのではないかと思ったんです。しかし、驚くべきことにフランチェスコは実在していたのです。

 先生が取り上げたからだと思われますが、世間は総力をあげてフランチェスコの研究を始めました。弦楽器でフランチェスコの楽曲を演奏している動画も出てきましたし、結構詳しい研究サイトまでできました。これはもはや実在を疑っている場合ではありません。

 しかし、ほとんど忘れられていたことには理由があります。要するに大作曲家からはほど遠く、楽曲自体は極めて凡庸です。しかし、ポピュラー音楽の世界ではB級の味わい方がきちんとあります。この作品はとんでもなく可愛らしい作品に仕上がっており、味わい深いのです。

 シンクラヴィアは「シンセサイザーとサンプリングマシーンとシークエンサーが合体したような電子楽器」です。大変高価な楽器ですけれども、先生はこの頃これを手に入れ、夢中になったようです。先生はシンクラヴィアを嬉々として操る姿をビデオに残しています。

 そんな凄いマシーンですから、どんな音でも出せるはずなんですけれども、まだまだデジタル時代としては幼年期なので、サウンドはデジタル臭いです。硬質で冷やっこいいかにもデジタルなサウンドなんですね。それがこの室内楽曲とは見事にマッチするわけです。

 ジャケットには服の色が赤から金色に変わったパトリシアが映っています。パトリシアのジャケットはこれで3作目です。どういう意味があるのか分かりにくいところですけれども、今回は18世紀イタリアということで、若干おめかししているように感じるところがいいですね。

 不思議と耳に残る作品です。先生の作品の中でも特に愛聴したという記憶はないのですが、可愛らしいメロディーが耳に残って消えることがありません。クラシックの有名曲をシンクラヴィアで演奏してもこうはならない気がします。愛らしい作品です。

Francesco Zappa / Frank Zappa (1984 Barking Pumpkin) #042

*2014年1月7日の記事を書き直しました。



Tracks:
Opus I
01. No.1 1st Movement Andante
02. 2nd Movement Allegro Con Brio
03. No.2 1st Movement Andantino
04. No.2 2nd Movement Minuetto Grazioso
05. No.3 1st Movement Andantino
06. 2nd Movement Presto
07. No.4 1st Movement Andante
08. 2nd Movement Allegro
09. No.5 2nd Movemnt Minuetto Granzioso
10. No.6 1st Movement Largo
11. 2nd Movement Minuet
Opus IV
12. No.1 1st Movement Andantino
13. 2nd Movement Allegro Assai
14. No.2 2nd Movement Allegro Assai
15. No.3 1st Movement Andante
16. 2nd Movement Tempo di Minuetto
17. No.4 1st Movement Minuetto

Personnel:
Frank Zappa : conductor
Barking Pumpkin Digital Gratification Consort