幻のアルバムです。プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ、PFMのイタリアにおけるデビュー・アルバム「幻想物語」です。EL&Pのマンティコア・レーベルから紹介されたことでPFMを知った私たちにとっては、その前史は暗闇の中にありました。

 もちろんPFMが2枚のアルバムを出していたことは知っていましたが、イタリアからの輸入盤はハードルが高く、実際の音を耳にするのは1988年にキング・レコードからヨーロピアン・ロック・コレクションの一部として日本で発売されてからのことでした。

 PFMはイ・クエッリなるバンドを前身としています。日本では冠詞を略してクエッリと呼ばれることが多いのですが、実はこのイ、冠詞として間違っているそうです。ひとひねりしてあるわけで、これもメンバーによる企みの一部でした。月並みなバンドではないぞ、と。

 クエッリは、ドラムのフランツ・ディ・チョッチョ、ギターのフランコ・ムッシーダ、キーボードのフラヴィオ・プレーモリ、ベースのジョルジョ・ピアッツァの四人組として、英米の楽曲のカバーを中心に演奏していたそうです。クエッリはアルバムも一枚発表しています。

 クエッリは演奏技術が高く、四人まとめてセッション・ミュージシャンに起用されることが多く、ファブリツィオ・アンドレやルーチョ・バッティスティなどイタリアを代表するカンタトゥーレ、すなわちシンガー・ソングライターの名作で演奏してその名声を高めていきます。

 やがて、1970年にバッティスティの作品などで共に演奏したバイオリンとフルートのマウロ・パガーニを加えた5人組として、名前も一新して再始動します。PFMの誕生です。すぐに彼らはプロコル・ハルムやディープ・パープル、イエスなどの前座に抜擢されます。

 ついに1971年10月に「九月の情景」でシングル・デビュー、その3か月後に発表されたのが本作品「幻想物語」というわけです。PFMへの期待は高く、アルバムは発売されるやいなやイタリアのチャートで1位を獲得したとかしないとか。

 アルバムの原題は「1分の物語」というもので、男が1分間自身の日常を振り返るというテーマを示しています。そうです、これはコンセプト・アルバムです。ザ・プログレッシブ・ロックです。もうこの時点でPFMの音楽は確立しており、堂々たるデビュー作だといえます。

 クラシカルなスタイルのプログレ・サウンドで、超絶技巧による隙のないアンサンブルがとにかく美しいです。メロトロンやミニ・モーグを駆使し、さらにフルートやバイオリンが華麗に舞うサウンドで、それがロック色全開のリズム隊と一体化しています。かっこいいです。

 作品中の1曲、「祭典の時」は後に「幻の映像」の「セレブレーション」としてリメイクされます。これを比べてみると、ミックスが随分違います。本作品の方がずっと生々しい。イタリアの香りがぷんぷんします。この感覚が本作品を特別なものにしています。

 英国プログレ風の洗練した衣装が施される前の少し無骨なイタリアの武者たち。全体はとにかく美しいのですが、荒々しい。そこがいいです。ロック界の辺境であったイタリアの真骨頂が発揮されており、それは同じ辺境だった日本にも響いてくるのでした。

Storia Di Un Minuto / Premiata Forneria Marconi (1972 Numero Uno)



Tracks:
01. Introduzione イントロダクション
02. Impressioni Di Settembre 九月の情景
03. È Festa 祭典の時
04. Dove... Quando... (Parte 1) 何処で...何時...(パート1)
05. Dove... Quando... (Parte 2) 何処で...何時...(パート2)
06. La Carrozza di Hans ハンスの馬車
07. Grazie Davvero 限りなき感謝

Personnel:
Franco Mussida : guitar, mandocello, vocal
Flavio Premoli : organ, piano, Mellotron, harpsichord, minimoog, vocal
Mauro Pagani : flute, piccolo, violin, chorus
Giorgio Piazza : bass, chorus
Franz Di Cioccio : drums, Moog synthesizer, gadgets, chorus