フレッド・フリスがオーケストラに挑戦した作品、「サムシング・アバウト・ディス・ランドスケイプ・フォー・アンサンブル」です。フリスとともに演奏するのは、ジャン・ポール・デシー指揮のベルギーのアンサンブル・ムジーク・ヌーヴェルという楽団です。

 本作品制作はアルス・ムジカの依頼によるものです。アルス・ムジカは1989年以来、ベルギーの首都ブリュッセルで毎年開かれる現代音楽のフェスティバルです。現代音楽界では最大の国際フェスとして名高く、毎年会期中には100本ものコンサートが開催されます。

 アンサンブル・ムジーク・ヌーヴェルは、ベルギーの指揮者ピエール・バルトロメーによって1962年に設立された楽団です。現代音楽を専門に演奏する楽団としてはヨーロッパ最初期の楽団の一つで、アンサンブルのために作られた曲も数多いとのことです。

 現在の音楽監督はチェロ奏者でもあるジャン・ポール・デシーです。デシーによれば、ムジーク・ヌーヴェルのコンサートは「聴衆がその心とスピリチュアリティに力強い栄養を摂取できるエネルギーに満ち溢れた時間」です。気合が入っています。

 フリスは「ほぼ独学のロック・ミュージシャンとして」、会ったこともない人たちによる楽団のために音楽を書くことが困難だったと述懐しながらも、カリフォルニアのジョシュア・ツリーにある知人宅で本作品を書き上げました。U2でお馴染みのあrのジョシュア・ツリーです。

 フリスにインスピレーションを与えたのは当地の「静けさ、光、生命、歴史、渡りの時期の鳥たちの異常なまでの多様性」でした。その結果として付けられたタイトルが「サムシング・アバウト・ディス・ランドスケイプ・フォー・アンサンブル」、そのまんまです。

 フリスは作曲する際、完成したスコアを書くのではなく、演奏しながら変更されていくことを前提にしてスコアを書いています。ここでも、その手法を踏襲しており、たとえば空白でヒントだけが書かれた部分を残すなど、アンサンブルにとっては大変な挑戦でした。

 本作品はその成果である22分に及ぶタイトル曲が聴けます。フリスの演奏者への指示は、即興を奨励することや、何か金属を用意して床に一度落とすことなど具体的なものもあり、さらにプリペアード・ピアノやギターの用意の仕方なども指示されています。

 出来上がったのは、いわゆる現代音楽風のサウンドです。とはいえ、そこはフリスです。ところどころヘンリー・カウ的なロックの感覚が表れてくるところが面白いです。全体を通して繊細なサウンドがジョシュア・ツリーのスピリチュアルなムードを連れてきています。

 アルバムには他に2曲が収録されています。いずれもアンサンブルとフリスによる即興演奏で、そのうち「ダーティー・アンド・ライト」はコンサートにて聴衆を前に演奏されたもの、「ダーク・アンダー・スター」はコンサート当日にリハーサルで演奏されたものです。

 本編を演奏することでお互いが学び合った成果が表れているということでしょう。ここではやはり本編には敵いません。複雑な構成の妙が現代音楽アンサンブルには似合います。フリスは作曲家としても一流であることを世に示した作品でしょう。

Something About This Landscape For Ensemble / Fred Frith and Ensemble Musiques Nouvelles (2023 Sub Rosa)



Tracks:
01. Something About This Landscape For Ensemble
02. Dirty And Light
03. Dark Under Stars

Personnel:
Fred Frith : guitar
Berten D'Hollander : flute
Charles Michels : clarinet
Adrien Lambinet : trombone
Hughes Kolp : guitar
Pierre Quiriniy : percussion
Claire Bourdet : violin
Laurent Houque : violin
Karel Coninx : viola
Jean-Paul Zanutel : cello
Jean-Paul Dessy : conductor