洋楽を聴き始めた中学生の頃にPFMは世界デビューを果たしました。プレミアータ・フォルネリア・マルコーニという名前を発音するだけで、何やら得意げな気になったことを覚えています。素敵な名前ですけれども、実はパン屋さんの名前なんだそうですね。

 「幻の映像」はイタリアのプログレ界最大のスターPFMによる海外デビュー盤です。エマーソン、レイク&パーマーが設立したばかりのマンティコア・レーベルから全世界へと放たれました。ミュージック・ライフ誌に躍った広告を見て心がときめいたものです。

 イタリアではもともとイギリスのプログレッシブ・ロックの人気が極めて高く、この当時、数々の有名バンドがイタリア公演を行っていました。すでにイタリアでは人気を集めていたPFMはそんなバンドたちの前座を務めることが多かったそうです。

 EL&Pのイタリア公演でもPFMが前座を務めました。この時、彼らの演奏をいたく気に入ったのがグレッグ・レイクです。イタリアのバンドを紹介するという新奇さもあって、新しいアーティストを探していたマンティコアとPFMの契約はとんとん拍子に進みました。

 「幻の映像」はその第一弾です。ただし、このアルバムは純然たるニュー・アルバムというわけではなく、イタリアで発表済だった二枚のアルバムからの曲に新曲を1曲加えた作品です。その際、もともとイタリア語で歌われていた既往の曲は英語詞で歌い直しています。

 英語詞を書いたのは同じマンティコア・レーベルからアルバムを発表したピート・シンフィールド、あのキング・クリムゾンの詩人です。シンフィールドは新曲のプロデュースと既往曲のリミックスも担当しています。PFMはいかにもシンフィールド好みのバンドですね。

 出来上がった作品は、一言で言って傑作です。冒頭の「人生は川のようなもの」がすべてを物語っています。とにかく死ぬほど美しい曲です。クラシック・ギターのイントロにフルートが絡み、やがてクラシカルなキーボードが加わって、一転して荒々しい響きに包まれる。

 そこにボーカルが加わると叙情性豊かな演奏へと移り変わっていきます。プログレッシブ・ロックと聞いて思い浮かべるサウンドの典型がここにあります。クラシカルなムードを漂わせながらも激しいロックも展開する。見事な曲です。他の曲もとにかく美しいのです。

 メンバーには地中海の民族音楽に傾倒することになるマウロ・パガーニが在籍しており、本作品のサウンドにもうっすらと地中海エスニックの香りが漂います。イタリアといえばクラシックですが、アラブ色の消えない民族音楽もあるわけで、そこが他の国との違いなのでしょう。

 本作品はイギリスや日本では結構な成功を収めました。当時、シングル・カットされた「セレブレーション」がラジオでよく流れていたことを覚えています。その後も、本作品が廃盤になったことはないのではないでしょうか。根強い人気が続いています。

 思えば、私たちはイ・プーとPFMで初めてイタリアにもプログレッシブ・ロックがあるのだということを知りました。PFMを入口にイタリアのプログレの森に分け入って引き返せなくなった人も多いはずです。それはそれで大変幸せなことでしょう。色褪せない傑作です。

Photos of Ghosts / Premiata Forneria Marconi (1973 Manticore)

*2013年8月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. River Of Life 人生は川のようなもの
02. Celebration
03. Photos Of Ghosts 幻の映像
04. Old Rain
05. Il Banchetto 晩餐会の三人の客
06. Mr. 9 'Till 5 ミスター9~5時
07. Promenade The Puzzle

Personnel:
Flavio Premoli : keyboards, vocal
Franz Di Cioccio : drums, vocal
Giorgio Piazza : bass
Franco Mussida : guitar, vocal
Mauro Pagani : violin, woodwind