今はどうか知りませんが、私たちが子どもの頃はハーモニカは必修でした。少し大きくなるとリコーダーに移行しますから、小学校も低学年の頃ですね。そのため馴染みが深いわけですが、どうしても子どもの楽器、おもちゃのような印象がぬぐえません。

 そんな私の印象をがらりと変えてくれたのが、ソウル界で大成功を収めたウォーのオリジナル・メンバーにして、今でも当時の仲間と音楽活動を続けているリー・オスカーでした。本作品はウォーが人気絶頂の頃に発表されたオスカーのソロ・デビュー作です。

 この作品は日本でも大いに人気を博しました。それというのも、アルバム中の一曲「約束の地」が資生堂のTVコマーシャルに使われて大そうな評判を得たからです。そのCMのキャッチコピーが「女の顔はひとつじゃないよ」です。何とも不思議な取り合わせです。

 アルバム自体はセルフ・タイトルなのですが、邦題は「約束の旅」とつけられました。これはアルバムの前半におかれた組曲「アイ・リメンバー・ホーム(ペザンツ・ジャーニー)」にかけたものでしょうが、同曲の邦題自体は「追想」とされました。

 この「追想」の三曲目が「約束の地」で副題に「女の顔はひとつじゃないよ」が付けられました。オスカーもまさか自身の曲にそんなタイトルがつけられるとは思ってもみなかったことでしょう。ただ、「追想」は言い得て妙で、本作品の優しいフュージョン色を綺麗に表しています。

 さらに日本盤ではウォー人気にあやかろうとしたのか、アーティスト名がリー・オスカー&ウォーとされました。しかし、本作品の中でウォーが全面的に参加している楽曲は多くはありません。むしろ、グレッグ・エリコの活躍が大きいです。

 エリコはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの創設メンバーであり、その後、ウェザー・リポートやデヴィッド・ボウイ・バンド、サンタナ、ジェリー・ガルシア・バンドなどで大いに活躍したアーティストです。ここではジェリー・ゴールドスタインとプロデュースも分け合っています。

 そんなわけでウォーとは一味違う、よりしゅっとしたサウンドが楽しめます。ウォーほど粘っこくなくて、さわやかにジャズや軽めのラテン、ブルースにロックをフュージョンしたサウンドになっているんです。ハーモニカの音色が見事に気持ちいいです。

 オスカーは6歳で初めてハーモニカを手にし、ハーモニカ奏者はアメリカに行くべきだと思い立って18歳にして渡米、放浪の末、エリック・バードンと出会い、ウォーに参加しています。その後もハーモニカ一筋で、後にハーモニカ製造まで始めています。

 ハーモニカの音色はどこか哀愁を感じさせます。「約束の地」などはスペインかアルゼンチンか、バンドネオンのようなサウンドが美しいです。しかし、ハーモニカに一生を捧げたオスカーの繰り出すサウンドはそれだけにとどまりません。百花繚乱です。

 ウォーのアルバムでもソロっぽかった楽曲「ブリスターズ」はここにも収録されています。また、「サンシャイン・ケリー」はウォーが全面的に参加しており、こちらはまさにウォー。ウォーのサウンドにおけるオスカーの重要極まりない位置づけが分かるというものです。

Lee Oskar / Lee Oskar (1976 United Artists)



Tracks:
01. I Remember Home (A Peasant's Journey) 追想
1) The Jouuney 旅
2) The Immigrant 旅人
3) The Promised Land 約束の地(女の顔はひとつじゃないよ)
02. Blisters あわ
03. Blt
04. Sunshine Keri
05. Down The Nile
06. Starkite

Personnel:
Lee Oskar : harmonica, vocal
***
Steve Busfield : guitar, mandolin
Robert Vega : bass, guitar
Greg Errico : drums, wind chimes, horns, vibraphone, synthesizer, strings, piano, bass, guitar, tambourine, timbales
Lonnie Jordan : keyboards, timbales
Herman Eberitzsch : piano
Charles Miller : sax
Chepito Areas : congas
Wendy Haas : vocal
Terry Medeiros : guitar
Nito Medina : guitar
B.B. Dickerson : bass
Harold Brown : drums
Howard Scott : guitar
A. Martelo, B. Davis, D. Davis, D.Doughty, G. Prince, G. Rhode, K. Oskar, P. Montaner, T. Prince, V. Martelo, Edna Wright, Julia Tillman, Lonnie Groves, Maxine Willard : chorus