第一弾の4作品に手ごたえを感じたオブスキュア・トリオ、すなわちブライアン・イーノ、ギャヴィン・ブライヤース、マイケル・ナイマンはオブスキュア・シリーズ第二弾を制作しました。第二弾は3作品で、本作品はその一つ、「ヴォイス・アンド・インストゥルメンツ」です。

 スプリット・アルバムとなっており、A面にはヤン・スティール、B面にはジョン・ケージの作品が収録されています。ブライヤースによれば、オブスキュアの両極端、ポピュラー音楽と実験音楽の境界に立っているアルバムだということになります。

 スティールは英国のアーティストでキース・ティペットによるプログレ・バンド、センティピードに在籍したこともあり、キング・クリムゾンのロバート・フリップなどとも親交がありました。その意味ではポピュラー音楽寄りのキャリアを歩んできた人です。

 本作品への収録が実現した経緯は、スティールの自作テープがロバート・フリップを経由してイーノの手に渡り、それにイーノが興味を示したというものなのだそうです。ここにはそのきっかけとなった曲を含めた3曲が新たに録音し直されて収録されています。

 「オール・デイ」はスティールがドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」を研究していたことからできた曲で、ジェームズ・ジョイスの詩を使ったボーカル曲です。静謐なボーカルとフレッド・フリスやスティーヴ・ベレスフォードのすき間の多い演奏が美しい曲です。

 この曲は今ならばインディーズ系のロックないしフォークに分類されていることでしょう。続く「ディスタント・サキソフォン」はインストゥルメンタルで、サックスは使われていませんが、背景に流れるドローンがサックスのように聴こえることからベレスフォードが名付けたそうです。

 さらに「ラプソディー・スパニエル」へと作品は続きます。こちらはピアノの連弾です。いずれも「オール・デイ」の流れを受け継ぎ、室内楽と実験音楽、ポピュラー音楽の境目をたゆたうような美しい作品になっています。実にオブスキュア・レーベルらしいサウンドです。

 B面は誰もが認める現代音楽の巨匠ジョン・ケージです。何やらレーベルの趣旨に反するようではありますが、ここは演奏者をみれば疑問も吹き飛びます。アルバム・タイトル通り、重要な役割を果たす「声」を担当するのがロバート・ワイアットとカーラ・ブレイなのです。

 楽器演奏は後にテート・モダンの音楽コンサルタントを務めるリチャード・ベルナスです。ピアノとパーカッションを担当していますが、そのうちの1曲ではパーカッションがピアノ自身です。鍵盤にふたをしたピアノを叩いているのです。ケージらしい作品です。

 また、最後の曲はピアノ・ソロですが、ずっとペダルを踏み続けているため、得も言われぬ音になっています。こうした楽器の変わった使い方はワイアットとブレイというポピュラー畑からの参戦に通じるところがあります。理論的かつ実験的ですが、仕上がりは美しい。

 結局、スプリット・アルバムなのに統一感が半端ないことになっています。さすがは名伯楽イーノです。まるでつながりのない二人の作品を同居させて見事な作品を作りだしました。ケージもこの作品に満足し、スティールの作品も気に入ったとのことでした。

Voices and Instruments / Jan Steele, John Cage (1976 Obscure)



Tracks:
Jan Steele
01. All Day
02. Distant Saxophones
03. Rhapsody Spaniel
John Cage
04. Experiences No.1
05. Experiences No.2
06. The Wonderful Widow Of Eighteen Springs
07. Forever And Sunsmell
08. In A Landscape

Personnel:
Janet Sherbourne : voice, piano
Stuart Jones : guitar
Fred Frith : guitar
Kevin Edwards : vobraphone
Steve Beresford : bass
Phil Buckle : percussion
Jan Steele : flute
Utako Ikeda : flute
Dominic Muldowney : viola
Martin Mayes : piano
Arthur Rutherford : percussion
Richard Bernas : piano, percussion
Robert Wyatt : voice
Carla Bley : voice