1970年代のソウル・シーンを牽引したバンドといえば、アース・ウィンド&ファイヤー、Pファンク、そしてウォーです。本作品はそのウォーが初めてお目見えしたアルバムなのですが、素直にデビュー・アルバムと言ってしまえない事情があります。

 というのも本作品は元アニマルズのスター、エリック・バードンと組んだアルバムだからです。そうなるとどうしても主役はバードンとなってしまいます。けして、バードンとそのバック・バンドというわけではありませんが、片や大スター、片や新人ですから仕方がありません。

 バードンとウォーの面々がバンドを組む経緯には諸説ありますが、いずれにせよハリウッドのクラブで演奏していたナイトシフトなるバンドの演奏を、プロデューサーのジェリー・ゴールドスタインとバードンが気に入って、新バンド結成を持ち掛けたということになります。

 ナイトシフトとバードンによるバンドはエリック・バードン&ウォーと名乗ります。このナイトシフトですが、ここにはすでにデンマーク生まれのハーモニカ奏者リー・オスカーが在籍していた模様です。バードンが加入する以前から黒人と白人が混在したバンドだったわけです。



 剣呑なバンド名ですけれども、当時はベトナム戦争の最中です。戦争は身近にありました。本デビュー作では、人々が愛し合う権利を求めて宣戦布告するのである、とフラワー・パワー・ムーヴメントっぽい宣言がなされています。時代背景を反映しています。

 バードンは有名人ですし、ゴールドスタインは業界人ですから話は早く、早々にレーベル契約がまとまります。エリック・バードン&ウォーはデビュー作となる本作品「宣戦布告」をメジャー・レーベル、MGMから発表します。1970年4月のことです。

 このバンドは、ボーカルにバードン、ハーモニカにオスカー、サックスにチャールズ・ミラー、ギターにハワード・スコット、キーボードにロニー・ジョーダン、ベースにBBディカーソン、ドラムにハロルド・ブラウン、パーカッションにパパ・ディー・アレンと8人の大所帯です。

 デビュー作は全米18位とまずまずの成績を収めます。そして何より、シングル・カットされた「スピル・ザ・ワイン」が全米3位の大ヒットを記録して、一躍エリック・バードン&ウォーの名前は広く知られることになりました。この上ないスタートだと言えます。

 「スピル・ザ・ワイン」はジョーダンがワインをミキシング・ボードにこぼした事件を題材にした曲で、ファンキーな演奏に乗せてバードンがソウルフルに語るように歌うというヒップホップに通じる楽曲です。バードンとたもとを分かった後もウォーのライヴでは定番になる名曲です。

 アルバムは全5曲中3曲がメドレー形式の長尺の曲で、ウォーのメンバーによるラテンやジャズ、ブルース、ソウル、ファンクにロックなどをミックスしたジャムっぽい演奏に、ホワイト・ソウルの第一人者ともいえるバードンがねっとりと力強いボーカルを極める形です。

 急いで制作されたアルバムのようですが、すでにウォーの演奏は確立しており、バードンの凄味とあいまって、時代を感じさせない傑作になっています。醸し出されるグルーヴ感は唯一無二で、いつまでも浸っていたいと思ってしまいます。デビュー作にして大傑作です。

Eric Burdon Declares "War" / Eric Burdon & War (1970 MGM)

注:リー・オスカーをオランダ生まれと間違って書いておりました。お詫びして訂正します。




Tracks:
01. The Vision Of Rassan
a) Dedication
b) Roll On Kirk
02. Tobacco Road
a) Tobacco Road
b) I Have A Dream
c) Tobacco Road
03. Spill The Wine
04. Blues For Memphis Slim
a) Birth
b) Mother Earth
c) Mr. Charlie
d) Danish Pastry
e) Mother Earth
05. You're No Stranger

Personnel:
Eric Burdon : vocal
Lee Oskar : harmonica
Charles Miller : tenor sax, flute
Howard Scott : guitar, chorus
Lonnie Jordan : organ, piano
Bee Bee Dickerson : bass, chorus
Harold Brown : drums
Dee Allen : conga, percussion