とても美しいジャケットです。ミルク・クラウンではないところがいいです。裏ジャケもつぶれたクラウンでシークエンスになっているようです。エドガー・フローゼの奥さんモニクによる写真です。内ジャケも彼女で、ごく小さく息子さんの写真が添えられているところがまた絶品です。

 本作品はタンジェリン・ドリームのヴァージン・レコードからの第二作目「ルビコン」です。英国チャートの成績は前作を上回る10位まで上昇しました。タンジェリン・サウンドの完成を見た作品として名高く、彼らの最高傑作に推す人も多い人気盤です。

 前作の成功で、彼らは巨大コンソールを持つモーグ・シンセサイザーの二台目を手に入れることができました。このため、クリス・フランケの使用楽器はダブル・モーグ・シンセサイザーと記載されています。まるで祭壇のような設えの楽器になったそうです。

 さらにタンジェリン・ドリームはライヴにも果敢に挑戦します。ロンドンからイギリスをまわり、さらにフランスへとツアーを行ったのです。真っ暗な中でインプロヴィゼーションを繰り広げたステージは大いに評判を呼びました。1970年代初めはそんな時代だったんです。

 電子楽器は操作が簡単そうに思えますが、当時のシンセは操作性がひどく劣っており、記憶機能すらありませんでした。ボディ・コントロールで補うこともできず、思った通りのサウンドを得ることがなかなか難しい。ライヴは大変な苦労があったことでしょう。

 そのライヴで自信を深めたタンジェリン・ドリームが満を持して制作したのが本作品です。両面に1曲ずつ、インプロヴィゼーションを基調にした曲が収録されています。ここでのサウンドはタンジェリン・ドリームと聞いて多くの人が思い浮かべるであろうサウンドになっています。

 シークエンサーによる反復ビートと、シュワシュワする上物の組み合わせからなるサウンドはまさにタンジェリン・ドリームのシグネチャー・サウンドです。曲の構成もかなりすっきりとまとまっており、いわゆる完成度が高いと評される作品になっています。

 放浪癖のあるメンバー、ピーター・バウマンは、「一方にエンターテインメントがあり、他方に純粋な音楽があって、もしどちらかを選ばなければならないとしたら、僕らはエンターテインメントよりも純粋な音楽を演奏したいんだ」と語っています。彼らの意気込みが分かります。

 しかし、エンターテインメントは底力があります。前作あたりから、タンジェリン・ドリームの音楽はエンターテインメント的に消費されるようになってきます。それは悪いことではないと思いますけれども、本人たちの意識とずれてきたとすればややこしい。

 ここまではサウンドの冒険に忙しくて、タンジェリン・ドリームのロマン主義的傾向が目立ちませんでしたが、サウンドが完成に近づいてくると、その傾向が前面に出てくるようになります。そこが本作品の最大の魅力ですけれども、本人たちの視座とはずれ始めます。

 ともあれ、その名の通り、「ルビコン」はサウンドの冒険を完成させたタンジェリン・ドリームが一歩踏み出した作品であり、その代表作として燦然と輝くアルバムであることは間違いありません。未来に生み出される凡百のエレクトロニクス・サウンドのひな型になりました。

Rubycon / Tangerine Dream (1975 Virgin)

*2013年10月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Rubycon (Part One)
02. Rubycon (Part Two)

Personnel:
Edgar Froese : mellotron, guitar, VC5 3 Synthi, organ, gong
Chris Franke : double Moog synthesizer, synthi A, organ, modified Elka organ, prepared piano, gong
Peter Baumann : organ, synthi A, e-piano, prepared piano, voice, ARP2600