タンジェリン・ドリームのヴァージン移籍第一弾である通算5枚目のアルバム「フェードラ」です。私の「フェードラ」初体験は中学校の頃でした。ほぼリアルタイムです。ギター小僧だった友人が名前につられて買っていたので、彼の家で聴かせてもらいました。

 正直なところ、「なんじゃこりゃ」と思ったものです。得体のしれない音がずーっとなっていて、全然ロックじゃないじゃないかと。友人は強がってはいたものの、激しい後悔の跡がありありとみてとれました。当時の中学生にとってLPは高価なものだったのです。

 ここに収められたサウンドは、タンジェリン・ドリームのトレードマークともなるシークエンサーの反復によるミニマル・ビートを駆使したサウンドスケープです。前作までのドローン攻撃も相変わらず続いています。この当時としては極めて斬新なサウンドだったのです。

 閑話休題。ヴァージンの総帥リチャード・ブランソンはタンジェリンの前作にほれ込み、5年契約を締結し、資金提供を行うことになりました。おかげでタンジェリン・ドリームの三人は有名なヴァージンのマナー・スタジオにて心置きなくレコーディングを行うことができました。

 さらに大きな事件としてクリス・フランケが大枚はたいてモーグ・シンセサイザーを入手したことがあげられます。ただし、当時のモーグはアナログな機械であり、音は保存できないわ、温度が上がると狂うわ、同じ音がなかなか出ないわと、大変な難物だったようです。

 そんな難物と格闘しながら出来上がったのが本作品です。タイトル曲の「フェードラ」はモーグを使って行ったリハーサルを録音したテープを切り貼りしてできたのだそうです。かなり偶然の要素が強いことが分かります。しかも難物だけに一期一会のサウンドですし。

 二曲目はメロトロンを処理した一発録音、三曲目は再びモーグで、四曲目はピーター・バウマンのフルートを中心にした楽曲と、四曲ともまるで異なります。湧き出てくるさまざまなアイデアをかなり自由に試してみましたという風情があり、とても楽しそうです。

 電気的な処理をしているとはいえ、フルートやギターなど生楽器も使っていますから、必ずしもシンセにこだわったわけではなく、自由自在にあらゆる手段を用いてサウンドを探求しているのだという姿勢がいい。前人未踏の地をゆくのだというプログレッシブな姿勢です。

 この作品は、英国では10万枚以上売れて、ドイツのバンドとしては初めて全英ヒットチャートの15位にランクされるという快挙を達成しました。世界各国でも売れており、わが田舎町にもやってきたわけです。この大成功は音楽史上の大事件でしょう。

 シーケンサーの導入はタンジェリン・ドリームが最初なのかどうかは定かではありませんが、少なくとも最初期の一人であることは間違いありません。反復ビートの快楽を知らしめた点では、クラフトワークと並んで今のクラブ系サウンドの礎を築いたといってもよいでしょう。

 本作品の発表からしばらくたつと、巷には電子音楽があふれることになります。歌謡曲から洋楽へと進出したばかりの中学生には「なんじゃこりゃ」でしたけれども、数年後には本作品などはとても聴きやすいと思うようになりました。個人史的にも重要な一枚です。

Phaedra / Tangerine Dream (1974 Virgin)

*2013年10月9日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Phaedra
02. Mysterious Semblnce At The Strand Of Nightmares
03. Movements Of A Visionary
04. Sequent C

Personnel:
Edgar Froese : mellotron, guitar bass, synthesizer, organ
Chris Franke : moog synthesizer, keyboards
Peter Baumann : organ, piano, synthesizer, flute